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現在までの成果

魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と軽度認知障害・認知症との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村(1990年時点)にお住まいだった、40~59歳の約1万2千人のうち、1995年と2000年のアンケートに回答し、かつ、平成26-27年(2014-15年)に行った「こころの検診」に参加した1127人のデータにもとづいて、魚介類、また魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量とその後の軽度認知障害・認知症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Alzheimers Dis. 2020年12月Web先行公開)。

海外のある研究では、認知症の3分の1は、そのリスク要因をとりのぞくことで予防されると推計されており、正常と認知症の中間といわれる軽度認知障害や、認知症を、早期に発見し予防につなげることが重要であると考えられています。

いくつかの先行研究では、魚摂取は認知症リスク低下と関連があるとの報告がありますが、主に欧米で行われた複数の論文の結果をまとめたメタアナリシスでは、明らかな効果は示されていませんでした。その理由として、魚の摂取量に地域差があること、追跡期間が短いことが考えられていました。そのため私達は、魚介類摂取量が欧米と比べて多い日本人における、中年期の魚介類やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が、その後の認知症のリスクとどのような関連がみられるかを調べました。

今回の研究では、1995年と2000年に行った2回の食事調査アンケート結果から魚介類とn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量の平均値を計算しました。魚介類には、さけ・ます、かつお・まぐろ、まぐろ缶詰、たら・かれい、あじ・いわし、たい類、さんま・さば、しらすぼし、うなぎ、たらこ・すじこ(魚卵)、いか、たこ、えび、あさり・しじみ、たにしといった貝類、ちくわ、かまぼの加工食品、干物、塩たら・塩ほっけ・塩さけの19質問項目を使用しました。
対象者を、魚介類、n-3系多価不飽和脂肪酸のそれぞれの摂取量で4つのグループに分け、最も摂取量が少ないグループに比べた、その他のグループの約15年後の軽度認知障害、および、認知症のリスクとの関連を調べました。その際、年齢、性別、学歴、既往歴(うつ、脳卒中、心血管疾患、糖尿病、がん)、飲酒頻度、喫煙習慣、身体活動を統計学的に調整しました。

 

魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量は、認知症のリスク低下と関連

その結果、研究参加者1,127人のうち、380人が軽度認知障害、54人が認知症と診断されました。認知症については、魚介類の摂取量が多いほどリスクの低下がみられ、最も摂取量が少ないグループ(中央値56g/日)を基準とした場合、最も多いグループ(中央値82g/日)では61%の認知症リスクの低下がみられました。魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)についても、同様の関連がみられ、最も少ないグループを基準とした場合、最も多いグループでは、それぞれ72%、56%、58%のリスク低下がみられました(図1)。軽度認知障害については、魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量とは、関連がみられませんでした。

図1.魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と認知症リスク

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さらなる研究が必要

今回の研究では中年期の魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が15年後の認知症のリスク低下と関連があることが示されました。
認知症は発症までに長い時間を要しますが、先行研究では追跡期間が短いことなどから、魚介類の摂取量を評価した時点で、認知症とは診断されていないが認知機能が低下している方の魚の摂取量が少ない、つまり、認知症によって魚の摂取量が少なかったことを観察していた可能性(因果の逆転)が指摘されていました。
今回の研究では認知症を評価する約15年前の食事調査アンケートからの摂取量を用いたため、因果の逆転の可能性は少ないことが考えられます。さらに、もう一つの問題点として、これまでは魚の摂取量が少ない国で行われた先行研究が多く、今回は魚類の摂取量が多い我が国で検討を行った結果、魚介類の摂取量が多いと認知症のリスクが低いという関連が明らかとなりました。
魚介類には、DHAなどの、n-3系多価不飽和脂肪酸が多く含まれており、神経機能に保護的に働く可能性が動物実験などで示されています。そのため、魚介類の摂取量と同様、DHA、EPA、DPAの摂取量が多い場合に、認知症のリスク低下と関連がみられたことが考えられました。
一方、今回の研究では、魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸摂取量と軽度認知障害との関連はみられませんでした。この理由として、軽度認知障害と診断された方は、正常と診断された方とあまり特性が異ならなかったことが考えられました。また、軽度認知障害は認知症の前段階と考えられていますが、軽度認知障害と評価された方の中には認知機能が軽快する方もいるため、1回の診断だけでは正確な診断ができなかった可能性が考えられます。
本研究では、認知機能評価を1度しか行っていないこと、食事の変化を評価していないこと、該当地域の一部(14%)の対象者しか調査に参加していないため、今回の結果は一般集団では異なる可能性があるため、今後さらなる研究が必要です。

 

目安量について
今回の結果では、最も多く魚介類を摂取するグループの摂取量の中央値は82g/日でした。私たちのアンケートで尋ねている、魚一切れの重量は、魚の種類や大きさにもよりますが70g程度なので、1日魚を約1切れ以上食べているグループと推計されます。
多目的コホート研究などで用いられる食物摂取頻度調査アンケートから算出した摂取量は、相対的なグループ分けには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また今回の研究のように、調査地域の一部の対象者に限定した摂取量(中央値)は、一般的な集団と異なる可能性があるため、ここに示した摂取量はあくまで参考値となります。

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