トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >脈絡膜厚と中期加齢黄斑変性の関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

脈絡膜厚と中期加齢黄斑変性の関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。平成2年(1990年)に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村(1990年時点)にお住まいでアンケートに回答した40~59歳の約1万2千人のうち、平成26-28年に行った「目とこころの検診」に参加し眼底検査を実施した901人のデータにもとづいて、脈絡膜の厚さと中期加齢黄斑変性の関連について調べた結果を専門誌に論文発表しましたのでご紹介します(Ophthalmol Retina. 2020年9月Web先行公開)。

加齢黄斑変性(AMD)とは、網膜の中心部の黄斑という組織が加齢とともに変性し視力の低下を引き起こす病気です。AMDの病期は、初期、中期、後期に分類され、初期、中期AMDでは、網膜の細胞からの老廃物を原因とする黄白色の病変(ドルーゼン)や色素上皮異常が見られるようになります(図1)。脈絡膜は網膜の外側にある部分で、血管が多く、網膜を含む眼球内に栄養を与える役目をしています。近年、脈絡膜の厚さが、AMDの一因となることがわかり、注目されています。
これまでの疫学研究からも、脈絡膜の厚さがAMDと関連することが報告されていますが、AMDの病期を分けた結果については一貫しておらず、アジア人からの報告はなく、よくわかっていませんでした。そのため、私たちは、眼科検査機器である光干渉断層計(OCT)を用いて、脈絡膜の厚さを測定し初期AMDと中期AMDとの関連を調べました。解析には、年齢、性別、屈折の影響を統計学的に調整し、これらのグループごとの影響をできるだけ取り除きました。

図1 AMDの臨床分類

381_1

出典:慶應義塾大学医学部眼科学教室
左)初期AMD 中型(63~125μm)のドルーゼンあり かつ ドルーゼンを伴う色素上皮異常なし
中央)中期AMD 大型(125μm<) のドルーゼンあり かつ/または ドルーゼンを伴う色素上皮異常あり
右)後期AMD 滲出型AMD かつ/または 何らかの地図状萎縮あり
※ドルーゼン:左)中央)図でみられる黄白色の沈着物

 

脈絡膜の厚さと中期AMDの有病は関連がみられた

調査に参加し眼底検査を実施した901名(平均年齢、73.2歳、男性376名、女性525名)のうち、眼科医によって初期AMDは136 人、中期AMDは81人と診断されました。AMD所見がない人と比較して、中期AMDの人では、脈絡膜が厚いという関連がみられました(図2)。

図2.脈絡膜の厚さと初期・中期AMDの有病

381_2

※ 脈絡膜の厚さが1μm標準偏差増加した場合のそれぞれのリスクを示しています。

 

まとめ

本研究では、脈絡膜の厚さは中期AMDのリスク増加と統計学的に有意な関連がみられました。これより、アジアで初めて、日本人では脈絡膜の厚さがAMDの病態形成に関与することが示唆されました。アジア人ではAMDの病態に脈絡膜の厚さが関与することが考えられており、本研究からも、AMDの病態形成に脈絡膜の厚さが関連していることがわかりました。これらは、今後の早期の治療に役立つ可能性が考えられます。
今後、脈絡膜の厚さと後期AMDの発症との関連の検討など縦断研究において、さらなる研究が必要です。

上に戻る