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現在までの成果

がんサバイバーの脳卒中リスクについて

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、研究開始時にがんや循環器疾患の既往がなく、また追跡期間中にがんと診断される前に脳卒中を発症していなかった40~69歳の男女約7万5千人を、平成21年(2009年)まで追跡した調査結果にもとづいて、追跡期間中にがんになった方とならなかった方を比較し、がん診断後の脳卒中リスクについて調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Sci Rep 2021年3月ウェブ公開)。

近年、がん治療の進歩等によってがん患者の生存率は年々向上しており、がんと診断された方(がんサバイバー)のその後の健康に関する研究が増えています。先行研究では、がんサバイバーは、その後の脳卒中のリスク上昇と関連することが報告されていますが、先行研究の多くは診療報酬明細データを用いた研究であり、脳卒中リスクを検討する際に不可欠とされる生活習慣や既往などの背景要因が十分調整されていませんでした。そこで本研究では、がん登録及び循環器疾患登録の両方のデータを用いた前向き研究で、追跡期間中にがんと診断された方をがんサバイバーと定義し、生活習慣などの要因を調整したうえで、その後の脳卒中の発症リスクを検討しました。
今回の研究では、研究開始時から追跡期間中に、なんらかのがんと診断された方は、10,136人でした。そのうち、胃がん、大腸がん、肺がんと診断された方は、それぞれ、1954人、1948人、1173人でした。調査開始時のアンケート調査の性・年齢・地域・喫煙状況・体格・飲酒状況・余暇の運動習慣・高血圧および糖尿病の既往の有無・検診受診の有無に基づき傾向スコアを構築し、がんと診断された方、それぞれに対して、がんを罹患しなかった方を傾向スコアでマッチングし、64,394人がマッチしました。

 

 

がんサバイバーとがん罹患後の脳卒中リスクとは関連しない

解析の結果、がんに罹患しなかったグループと比較して、がんと診断されたグループでは、追跡期間全体における脳卒中リスクとの関連はみられませんでした(図1)。

図1 がんの部位別によるがん罹患後の脳卒中リスク(追跡期間全体)

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*図1では、追跡期間中にがんを罹患しなかったグループに対して、それぞれのがんと診断されたグループの脳卒中の発症リスクを示しています。

  

がんと診断されてから1~3か月間の脳卒中リスクが上昇

一方、全がん(全部位のがん)と診断されてから1年以内について、さらに期間を区切って解析を行ったところ、診断後1~3か月間では、がんに罹患していないグループと比較して、がんと診断されたグループでは、脳卒中および脳梗塞のリスクが、統計学的有意に上昇していることが分かりました(図2)。

図2 全がん罹患後の脳卒中リスク(診断後1年以内)

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**図2では、追跡期間中どのがんにも罹患しなかったグループに対し、何らかのがんと診断されたグループの脳卒中、脳梗塞の発症リスクを示しています。

 

まとめ

今回の研究では、追跡期間全体ではがんと診断されたグループと脳卒中の発症リスクとは関連がみられませんでした。一方で、何らかのがんと診断されてから1年以内の脳卒中発症に限定し、期間を区切って解析した場合、がんの診断後1~3か月以内では、がんと診断されたグループでは、がんに罹患しなかったグループに比べて、脳卒中全体および脳梗塞のリスクが上昇していました。この理由の一つとしては、がん診断後に行われる治療の影響が考えられます。進行がんの場合では外科治療が行われることが多く、術後に体を動かさない状態が続くことで血液が固まりやすくなるといわれており、また、抗がん剤の一部には、血栓症のリスクをあげることも報告されています。さらに、がん細胞があることで血栓が出来やすくなること、炎症性サイトカインの作用、腫瘍細胞の血管への癒着なども理由として考えられます。加えて、がんと診断されることで受ける強いストレスも、脳卒中のリスク上昇に関連している可能性があります。

今回の研究では、部位別の解析においては症例数が少なかったため、結果の解釈には注意が必要です。また、がんと診断された後の生活習慣の変化については本研究では考慮していないため、今後さらなる研究が必要です。

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