トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症リスクとの関連
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症リスクとの関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣とがん・脳卒中・循環器疾患などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成10年(1998年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の計9保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった44~76歳(アンケート回答時)の男女のうち、循環器疾患及びがんの既往がなく、食事アンケート調査に回答した87,177人(男性39,843人、女性47,334人)の方々を平均約13.1年間追跡した調査にもとづいて、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Br J Nutr. 2021年1月ウェブ先行公開)。

フラボノイドの豊富な果物には、抗酸化作用や抗炎症作用があり、血清脂質代謝や血小板機能を改善させることや、血圧値を下げることなどが報告されています。しかしこれまでに、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中に関する疫学研究は限られていました。そこで、本研究では、食事アンケート調査から、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症リスクとの関連を検討することを目的としました。

今回の研究では、フラボノイドの量が100g当たり50 mg以上の果物をフラボノイドの豊富な果物と定義し、りんご・なし、柑橘類(みかん、その他の柑橘類)、いちご、ぶとうが含まれます。フラボノイドの豊富な果物と、個々の果物の摂取量を算出し、摂取量の少ないものから人数が均等になるように、5つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準として、その他のグループのその後の脳卒中の発症リスクを検討しました。
解析にあたっては、年齢、地域、体格、喫煙、飲酒、職業、高血圧治療、高コレステロール血症治療、糖尿病の既往、余暇の運動頻度、魚介類、赤肉、加工肉、コーヒー、野菜類、大豆食品、緑茶、総エネルギー摂取量を統計的に調整し、グループによるこれらの影響をできるだけ取り除きました。

 

女性ではフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いグループで、脳卒中の発症リスクが低かった

本研究では、追跡期間中に4,091人の脳卒中(脳梗塞が2,557人、脳出血が1,516人、分類不明が18人)発症しました。女性では、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、脳卒中の発症リスクが低く、最も少ないグループ(中央値19.0g/日)と比べて、最も多いグループ(中央値329.7g/日)では、脳卒中の発症リスクが30%低い結果となりました。個々の果物との関連では、りんご・なしは関連がみられませんでしたが、柑橘類(みかん、その他の柑橘類)、いちご、ぶとうでは、脳卒中の発症リスク低下との関連がみられました。男性では、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症との関連はみられませんでした。脳卒中の病型別(脳梗塞、脳出血)においても、男女とも脳卒中全体と同様の結果がみられました。

385_1

 

この研究結果について

今回の研究により、日本人の女性において、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、脳卒中の発症リスクが低下する可能性が示唆されました。フラボノイドを豊富に含む果物の摂取が脳卒中発症リスクの低下と関連した理由として、フラボノイドによる抗酸化作用と抗炎症作用、動脈硬化の抑制や血圧降下作用などが考えられます。

海外で行われた複数の研究をまとめたメタアナリシスでは、りんご・なしの摂取と脳卒中のリスク低下との関連が報告されていますが、本研究では関連がみられませんでした。この理由として、フラボノイドはりんご・なしの皮に多く含まれており、日本ではりんご・なしの皮をむいて食べることが多いことから、関連がみられなったことが考えられます。柑橘類と脳卒中の発症リスク低下との関連については、先行研究と同様の結果でした。本研究では、いちごの摂取量が多いと脳卒中発症リスク低下との関連がみられましたが、先行研究では関連がみられなかった理由として、先行研究では、脳卒中の症例数が少なかったことが考えられました。また、本研究では、女性ではぶどうの摂取量が多いと脳卒中の発症リスク低下と関連がみられましたが、先行研究では関連がないことが報告されており、今回の結果を確認するためには今後も研究が必要です。

本研究は、先行研究と比較して最も大規模な研究ですが、1回の食事アンケート調査から摂取量を算出しており、追跡中の摂取量の変化について考慮できていないことなどが限界点としてあげられます。また、フラボノイドの豊富な果物の摂取は健康的な生活習慣と関連しているため、喫煙や飲酒などの生活習慣を統計学的に調整しましたが、調整されていない他の生活習慣の影響を受けているかもしれません。フラボノイドの豊富な果物と脳卒中の罹患リスクとの関連については、研究も少なく、結果が一致していないことから、今後もさらなる研究の蓄積が必要です。

上に戻る