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多目的コホート研究(JPHC Study)

中年期における体重変化と脳卒中および虚血性心疾患の発症との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんや循環器疾患になっていなかった40~69歳の男女約7.5万人を、平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、調査開始時から5年間の体重変化と脳卒中および虚血性心疾患の発症との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Atherosclerosis 2021年4月公開)。

体格の指数であるBody mass index (BMI、体重(kg)÷身長(m)の2乗)と脳卒中や虚血性心疾患の関連については多くの報告がありますが、体重が変化した後に、脳卒中や虚血性心疾患発症のリスクが増加する、あるいは減少するなど、どのような関連がみられるかについてのエビデンスは十分ではありませんでした。これまでに私たちの研究において、体重変化と脳卒中発症の関連は報告(BMI、体重変化と脳卒中発症との関連について)していましたが、今回の検討では、体重変化と脳卒中に加え、脳卒中の病型別[出血性(脳実質内出血、クモ膜下出血)、虚血性(血栓性、塞栓性)]と、虚血性心疾患の発症について新たに検討しました。

調査開始時と5年後の自記式アンケート調査の両方から得られた体重について、調査開始時からの5年間に体重がどれくらい変化したかを5つのグループ(5kg以上減少、3-4kg減少、±2kg以内の変化、3-4kg増加、5kg以上増加)に分け、その後の脳卒中および虚血性心疾患の発症リスクとの関連を検討しました。解析する際に、地域、喫煙状況、身体活動、飲酒習慣、高血圧や糖尿病の既往や服薬、高コレステロール薬の服薬の有無で調整を行い、これらの要因による影響をできるだけ取り除きました。

 

男性では体重減少、女性では体重減少・増加ともに脳卒中発症リスクの上昇と関連がみられた

その結果、追跡期間中に3,975人が脳卒中を発症し、914人が虚血性心疾患を発症しました。
脳卒中発症について、男性では、調査開始時から5年間に5kg以上体重が減少したグループでリスク上昇との関連がみられました(図1)。女性においては体重減少、体重増加ともに脳卒中発症のリスク上昇と関連を示し、U字型の関連となりました。病型別にみると、男性ではいずれの病型も統計学的に有意な関連はみられませんでしたが、女性では、血栓性脳卒中では5㎏以上体重が増加したグループでのみ統計学的有意なリスク上昇と関連がみられ、塞栓性脳卒中で体重の減少と増加で統計学的有意なリスク上昇が示され、U字型の関連がみられました(図2)。
虚血性心疾患について、男性では5kg以上体重が増加したグループでは統計学的に有意ではありませんでしたがリスク上昇がみられ、追跡開始から5年以内の発症を除いた解析でより強い関連がみられました。女性では、体重変化と虚血性心疾患の発症リスクとは、関連がみられませんでした(図3)。

 

図1 5年間の体重変化と脳卒中発症との関連

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図2 女性における5年間の体重変化と脳卒中病型別との関連

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図3 5年間の体重変化と虚血性心疾患発症との関連

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まとめ

今回の研究では体重減少は男女とも、脳卒中発症のリスク上昇と関連がみられました。体重増加では、女性において、脳卒中発症のリスク上昇と関連がみられ、男性では統計学的有意ではないものの虚血性心疾患発症のリスク上昇と関連がみられました。

この結果から中年期の体重変化は循環器病疾患のリスクとして留意する必要があると考えられます。過去のJPHC研究では、体重増加は女性において脳卒中発症のリスク上昇と関連がみられましたが、追跡期間を延長した今回の研究においては、体重減少も脳卒中発症のリスク上昇と関連があることが示されました。体重減少がなぜリスク上昇との関連を示したのか理由は明らかではありませんが、併存疾患やサルコペニアなど、健康上好ましくない状態によって体重が減少した可能性が考えられます。今回の研究では体重変化のみを検討しており、筋肉や脂肪などの体組成変化については考慮していないなどの限界があります。今後の研究では、これらの体組成変化が与える影響や、意図的に体重を変化した場合(例えば健康のためにダイエットした場合)の検討等を行うなど、さらなる研究が必要です。

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