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多目的コホート研究(JPHC Study)

降圧薬の長期内服とその後のがん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、研究開始時、5年後調査、10年後調査のアンケート全てにご回答下さり、10年後調査の時点でがん既往がなく追跡可能であった男女約6万8千人の方々を、平成24年(2012年)まで追跡した結果に基づいて、降圧薬の長期内服とがん罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Sci 2021年5月公開)。

様々な薬剤が当初の効果とは別に、癌の発生を予防あるいは促進する可能性が示唆されており、降圧薬に関しても数十年前から癌の発生との関連が議論されています。
血圧は様々な要因により調節されているため、降圧薬には、利尿薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、カルシウム拮抗薬など、多くの種類があります。降圧薬と発がんのメカニズムに関しては、一部の利尿薬は胃内で発がん作用を引き起こす物質に変換するという報告やアンジオテンシン受容体拮抗薬が腫瘍の血管新生を促進するという、発がんリスクの可能性の報告がある一方で、カルシウム拮抗薬が抗腫瘍薬の効果を増強させるという報告や、レニン・アンジオテンシン系阻害薬はがん細胞のアポトーシスを促進するという報告など、発がんを抑制することを示した報告もあります。
降圧薬内服とがん罹患リスクとの関連について、これまで薬剤や部位別のがんに限った疫学研究は多数報告されていますが、前向き研究で様々な部位のがん罹患リスクを同時に検討した報告はありませんでした。そこで、私たちは、降圧薬の長期内服と、その後のがん罹患リスクとの関連をがんの部位別に検討しました。

調査開始時、5年後調査、10年後調査のアンケート全てに回答し、がん既往歴のない人を、3回のアンケート調査の回答をもとに、いずれも内服なし(内服なしグループ)、10年後調査のみ内服あり(5年未満内服グループ)、5年後調査と10年後調査のみ内服あり(5−10年内服グループ)、いずれも内服あり(10年以上内服グループ)の4つのグループに分け、2012年末まで追跡調査を行いました。そして、内服なしグループに比べて、5年未満内服グループ、5−10年内服グループ、10年以上内服グループの、その後のがん罹患リスクが何倍になるのかを、全部位、肺、胃、大腸、肝臓、腎臓、膵臓、前立腺、乳腺のそれぞれのがんについて調べました。

 

降圧薬の長期内服は、全部位、大腸、腎臓のがん罹患リスク上昇と関連

降圧薬内服のないグループと比べて、10年以上内服グループでは、全部位、大腸、腎臓のがん罹患リスクと、5−10年内服グループでは、腎臓のがん罹患リスクの上昇と関連がみられました(図1)。

図1 降圧薬内服とその後のがん罹患リスクとの関連

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年齢、性別、地域、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病歴、塩分摂取量(胃がん)、慢性肝炎や肝硬変の既往(肝臓がん)、妊娠の経験(乳がん)を統計学的に調整

 

今回の研究について

今回の研究で、降圧薬の長期内服が全がん、大腸がん、腎がんの罹患リスクの上昇と関連する可能性が示唆されました。腎がんに関しては過去の研究でも降圧薬内服が罹患のリスク上昇と関連しているという報告があり、本研究の結果とも一致していました。また、高血圧患者は慢性腎臓病(腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態)のリスクが高いため、通院時に、超音波検査を受ける機会が、服薬をしていない人よりも多く、腎がんが偶然発見された可能性も考えられます。一方、大腸がんに関しては、過去の研究では、特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬などの降圧薬はリスクを低下させるという報告がみられましたが、今回の研究結果とは一致しませんでした。この理由としては、今回の研究が開始された1990年にはアンジオテンシン受容体拮抗薬が日本では使用されていなかったことなど、調査時期や内服していた降圧薬の種類が先行研究と異なることなどが影響している可能性が考えられます。
研究の限界点として、本研究では、アンケート調査に基づいているため、降圧薬の種類を聞いておらず種類を分けられないこと、服薬期間が正確ではない可能性などがあげられます。しかし、実際には服薬する降圧薬が数種類であること、治療途中で種類が変わることもあるため、種類を問わない降圧薬内服と、がん罹患リスクとの関連を明らかにした本研究は、1つのエビデンスとして有用であることが考えられます。
今回の研究では、降圧薬の長期内服者において、がんのリスクが上がる可能性があることを注意する必要があることを示唆しましたが、アジア諸国からの報告が少ないため、今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。

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