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多目的コホート研究(JPHC Study)

食事のGIおよびGLと死亡リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、平成5年(1993年)に、新潟県長岡、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)にアンケート調査に回答していただいた45〜74歳の72,783人(男性32,050人、女性40,733人)を対象に平成27年(2015年)まで追跡調査を行いました。その結果に基づいて、食事のグリセミック指数 (GI)、グリセミック負荷 (GL)と全死亡および主要な死因別にみた死亡リスクとの関連を調べ、その研究結果を専門誌に論文発表しましたので紹介します(Eur J Nutr. 2021年6月Web先行公開)。

 

食事のGIとは

食事全体に含まれる炭水化物による食後血糖値の上がりやすさを示す指標で、摂取される炭水化物の質を表します。血糖値を短時間で高い値に上昇させる食品が多い食事をしている場合、食事のGIが高いといえます。血糖を上げやすい炭水化物を含む食品には、白米、食パン、もち、じゃがいも等があります。

 

食事のGLとは

食事の中で摂取される炭水化物の質と量とを同時に示す指標です。例えば、血糖を緩やかに上昇させる食品が多い食事内容であっても、摂取量が多ければ食事のGLは高くなります。逆に、血糖を急激に上昇させる食品の摂取が多い食事であっても、摂取量が少なければ食事のGLは低くなります。

炭水化物は、我々の食生活における重要なエネルギー源のひとつですが、炭水化物の摂取による血糖値の上昇は、様々な慢性疾患に影響する可能性があります。食事に含まれる食品が、食後の血糖値をどの程度上昇させるかを表す指標としてGIやGLがあります。GIやGLと慢性疾患の関係について、これまでに多くの研究が行われていますが、そのほとんどが循環器疾患に着目したものであり、また大規模な集団を対象とした研究は行われていませんでした。さらに、これらの研究はほとんどが欧米人を対象としており、食習慣や死因となる疾病が異なる日本人のGI、GLと死亡リスクとの関連については明らかになっていませんでした。そこで、本研究では日本人の食事から得られるGI、GLと死亡リスクの関連を調べました。

対象となった方のアンケート調査の回答から、食事のGIおよびGLを算出しました。そして、それぞれの値に基づいて4つのグループ(Q1:最も低い~Q4:最も高い)に分け、最も低いグループを基準として、その後の全死亡および主要な死因別にみた死亡リスクとの関連を調べました。解析の際には、死亡リスクに関わる要因が結果に影響しないように統計学的に調整を行いました。

 

GIが高いグループで全死亡リスクが高い

平均約17年の追跡期間中に、12,448人(男性: 7,535人、女性:4,913人)の死亡が確認されました。
GIと死亡リスクの解析の結果、GIが高いほど全死亡リスクは高く、GIが最も低いグループと比較して、GIが最も高いグループの全死亡リスクは14%高いことがわかりました。さらに、死因別では、GIが最も低いグループと比較して、GIが最も高いグループの死亡リスクは循環器疾患で28%、心疾患で33%、脳血管疾患で32%、呼吸器疾患で45%高く、これらの死因についてもGIが高いほど死亡リスクが高いことがわかりました。GIとがん、消化器疾患の間に関連はみられませんでした。
一方で、GLについては全死亡リスクとの関連はありませんでしたが(図2)、死因別の死亡リスクでは、循環器疾患と脳血管疾患において、GLが高いほど死亡リスクが高くなっていました。GLが最も低いグループと比較して、GLが最も高いグループの死因別死亡リスクは、循環器疾患で24%、脳血管疾患で34%、呼吸器疾患で35%高いという結果でした。心疾患、がん、消化器疾患では、関連はみられませんでした。
これらの結果は、男女別に行った解析でも、同様の結果でした。

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※年齢、性別、地域、高血圧の既往、BMI、運動量、アルコール、喫煙、総エネルギー摂取量、食塩摂取量、赤肉・加工肉摂取量、魚類摂取量で統計学的に調整

 

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※年齢、性別、地域、高血圧の既往、BMI、運動量、アルコール、喫煙、総エネルギー摂取量、食塩摂取量、赤肉・加工肉摂取量、魚類摂取量で統計学的に調整

 

この研究について

これまでの研究では、GI, GLの値が高いと、ともに、全死亡のリスクが高いという結果でしたが、今回の研究では、GIの値が高いと全死亡のリスクが高く、GLの値とは関係がみられませんでした。これは、GI,GLを割り当てた成分表の違いや、食品ごとに割り当てられているGI, GLの値が国ごとに異なる可能性が結果の違いにつながった可能性があります。
また、今回の研究では、GI、GLの値が高いと、特に循環器疾患死亡リスクが高いという結果がみられました。これまでの14の研究をまとめたメタアナリシスでは、GI,GLが高いと循環器疾患のリスクが高いことが報告されています。このことは、食後の高血糖と高インスリン血症が、循環器疾患の発症に重要な役割を果たしていることをしめしています。GI値が高い食事は血管内の血栓の形成や血管内皮の炎症につながることが報告されています。さらに血糖値が上昇し、血糖値を下げる働きを持つホルモンであるインスリンが多く分泌される状態が長く続くと、中性脂肪やLDLコレステロール値が高くなり、また、収縮期血圧が上昇するという報告もあります。これらのメカニズムにより、循環器疾患や心疾患、脳血管疾患のリスクが高まると考えられます。また、高血糖が身体内の炎症や酸化ストレスを誘発し、呼吸器の機能低下につながる可能性も考えられます。

本研究の限界として、様々な要因について統計学的に十分調整できていないこと、追跡期間中の食事変化を検討していないことがあげられます。

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