多目的コホート研究(JPHC Study)
ビタミンB群およびメチオニンの食事摂取と胃がんのリスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、生活習慣病の予防と日本人の長寿と健康寿命の延伸に役立てるために、さまざまな生活習慣や食生活と、がん、脳卒中、心筋梗塞、認知症などの病気との関連性を調べる研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9つの保健所(呼称は2019年現在)にお住まいだった45~74歳の方々で、アンケート調査に回答いただき、がんの既往のない男女86,820人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12およびメチオニンの摂取とその後の胃がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Prev Res. 2021年11月Web先行公開)。
ビタミンB群やメチオニンは、DNAの合成やメチル化に関与する栄養素であることから、発がんに関係する可能性が示唆されています。これまでの欧米やアジアの先行研究では、葉酸やビタミンB群の摂取量と胃がんとの関連については、あったという報告と、なかったという報告があり、よくわかっていません。また、塩分濃度が高い食事は胃がんのリスクが高くなることが知られており、食塩がそれらの栄養素の摂取と胃がんリスクとの関連に影響を与える可能性があります。そこで私たちは、ビタミンB群(葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12)、メチオニンの摂取量と胃がんリスクとの関連について調べ、さらに、ナトリウム(食塩はナトリウムの化合物)摂取による影響についても調べました。
食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンの摂取量を推定しました。そして、それらの栄養素の摂取量によって、人数が均等になるように5つのグループに分け、摂取量が最も低いグループと比較した場合の、他のグループのその後の胃がんの罹患リスクを調べました。解析には、年齢、性別、地域、体格、余暇の身体活動、飲酒・喫煙習慣、がんの家族歴、ナトリウム摂取量を統計的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。
ビタミンB6、ビタミンB12およびメチオニンの食事摂取と胃がんの罹患リスクとの関連はみられなかった
平均15.4年の追跡期間中に、2,269人が胃がんに罹患しました。解析の結果、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12およびメチオニンの摂取と胃がんの罹患リスクとは関連がみられませんでした(図1)。
1日あたりのナトリウム摂取量が多い人では、葉酸の摂取量が多いほど胃がんの罹患リスクが高かった
次に、1日あたりのナトリウム摂取量の中央値(4.5g)で対象者を2つのグループに分けたところ、1日のナトリウム摂取量が4.5g以上の人では、葉酸の摂取量が最も多いグループで、胃がんの罹患リスクが1.28倍、有意に高くなりました(図2)。一方で、1日のナトリウム摂取量が4.5g未満では、葉酸摂取と胃がんの罹患リスクとの関連はみられませんでした(図3)。ビタミンB6、ビタミンB12およびメチオニン摂取と胃がん罹患リスクについては、ナトリウム摂取別に分けても影響はみられませんでした。
今回の結果から分かること
今回の研究から、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12およびメチオニンの摂取と胃がんの罹患リスクとの関連はみられませんでした。
これまでの研究において、葉酸の摂取量が胃がんリスクに関連はないという結果を示した研究では、リスクが増加したことを示した研究と比べて、対象者の葉酸摂取量が高い値でした。今回の対象者においても葉酸摂取量が高かったことから、比較的十分な量が摂取されていたため関連がみられなかった可能性などが考えられました。
一方で、1日のナトリウム摂取量が多い人では、葉酸の摂取量が多いほど胃がんの罹患リスクが高いことが示されました。高塩分の食事によって、胃の粘膜の防御機能が低下し、ピロリ菌の持続感染につながり、やがて萎縮性胃炎となり、胃がんのリスクが高まることが、多くの研究から報告されています。食塩の摂取量が多く、萎縮性胃炎の状態で葉酸を多く摂取することが、DNAの合成やメチル化に影響を及ぼし、発がんにつながった可能性などが考えられます。
今回の研究では、サプリメントからの摂取を検討できていないこと、ビタミンB群やメチオニンの代謝は、DNAのメチル化と合成に関与しており遺伝子にも影響を受けることが考えられますが、遺伝子多型の情報がなく検討できていないことなどが、本研究の限界です。
なお、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12およびメチオニンの摂取と胃がんのリスクとの関連については、これまでの研究からも結果が一致していないため、今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。