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現在までの成果

肉類摂取と胃がん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、アンケート調査にご回答くださった、45~74歳の男性42,328人、女性48,176人の方々を、平成25年(2013年)まで追跡した結果に基づいて肉の摂取と胃がんとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Am J Clin Nutr. 2021年11月Web先行公開)。

ヘリコバクター・ピロリ菌感染は胃がんの主要なリスクですが、食事を含むそのほかの要因も重要と考えられています。肉は高温で調理する時に、発がん性物質(ヘテロサイクリックアミンや多環芳香族炭化水素など)が生成されること、また加工肉には、食肉の加工や保存する過程で、発がんの可能性のある化学物質(ニトロソ化合物)が使用されることがあります。また、赤肉や加工肉に含まれるヘム鉄は、酸化ストレスによる細胞障害を起こすことや、ヘリコバクター・ピロリ菌の成長に必須な要素として働くことで胃がんの発がんに作用する可能性が報告されています。一方で、鶏肉は慢性炎症を抑制する作用のある不飽和脂肪酸が多く含まれており、がんのリスクを下げる可能性が報告されています。これまでの先行研究では、結果は一致していません。また、主要なリスク要因である、ヘリコバクター・ピロリ菌を考慮した研究はほとんどなく、アジアにおけるコホート研究は小規模(8071人)の報告が一つあるだけにとどまっています。そこで、私たちは、肉の摂取量が欧米諸国と比較して少ない日本人において、肉の摂取量と胃がんとの関連について調べました。

今回の研究では、調査開始時におこなった食事アンケートの結果を用いて、肉類の総量や赤肉(牛・豚)、加工肉(ハム・ソーセージ等)、鶏肉の1日当たりの摂取量を少ない順に人数が均等になるよう5グループに分け、最も少ないグループと比較して、その他のグループのその後の胃がんリスクについて調べました。また、解析では年齢、地域、余暇の身体活動量、飲酒量、喫煙状況、体格、糖尿病の既往と服薬の有無、高コレステロール血症薬の服薬の有無、胃潰瘍の既往の有無、胃がんの家族歴の有無、食事摂取量(野菜、果物、魚、高塩分含有食品)で統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。肉類の種類別の解析では、検討に用いていないその他の肉類を調整しました。例えば赤肉の場合では、加工肉と鶏肉を調整しました。

 

肉の摂取量と胃がん全体のリスクには関連を認めなかったが、女性では、鶏肉の摂取量が多いと下部の胃がんのリスクが低下する

平均して約15年の追跡期間中に、2701人が胃がん(男性1868人、女性833人)に罹患しました。肉類全体、赤肉、加工肉、鶏肉について、最も少ないグループを基準として比較しましたが、胃がん全体の罹患リスクとの間に、統計学的に有意な関連はみられませんでした(図1)。しかし、胃がんを、上部、下部に分けた場合、男女とも、肉類全体、赤肉、加工肉摂取量との関連は見られませんでしたが、女性では、鶏肉の摂取量が多いと下部の胃がんのリスクが25%低い結果でした(図2)。この傾向は、ヘリコバクター・ピロリ菌陽性の女性でも同様の結果でした。

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図1.肉類摂取量と胃がん
※肉の種類別の解析では、その他の肉類も調整変数とした

 

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図2.肉類摂取量と下部胃がん
※肉の種類別の解析では、その他の肉類も調整変数とした

 

この研究について

これまで、肉類と胃がんのリスクを検討した先行研究の統合解析(メタアナリシス)において、コホート研究やアジアの研究では赤肉摂取量と胃がんとの関連がないと報告されており、今回の結果と同様でしたが、加工肉については胃がんのリスク上昇と関連があると報告されており、異なりました。これらの違いは、症例対照研究とコホート研究の違いや、肉の摂取量が異なる欧米やアジアなど地域差によると考えられました。
一方、本研究では、鶏肉の摂取量が多いと下部の胃がん罹患リスクの低下と関連していました。これは、鶏肉は、赤肉と比較して、発がんに関連する細胞増殖やDNA損傷を促すヘム鉄や飽和脂肪酸の含有量が少なく、抗炎症作用をもつ不飽和脂肪酸が多いことによるため、と考えられました。この結果が女性だけに見られた理由は明らかではなく、今後の研究が必要です。
本研究では、肉類摂取量を追跡開始時しか評価しておらず、追跡期間中の食事の変化を考慮していないことなどが研究の限界です。

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