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多目的コホート研究(JPHC Study)

糖質摂取量と2型糖尿病罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、平成10年(1998年)に新潟県長岡、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった45~75歳のうち、糖尿病や循環器疾患、がんの既往などのない64,677人(男性27,797、女性36,880人)を対象に、5年間追跡した調査結果にもとづいて、糖質の摂取量と2型糖尿病罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Eur J Clin Nutr. 2021年9月Web先行公開)。

 

糖質について

糖質は炭水化物の一種で、単糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトースなど)や二糖類(ショ糖、麦芽糖、乳糖など)からなる単純糖質と、少糖類、多糖類(でん粉など)からなる複合糖質に分かれます(図1)。ブドウ糖、果糖、ショ糖は、主に甘味料、菓子類、甘味飲料、果物、野菜などに含まれ、麦芽糖は主に穀類、芋類に、ガラクトースや乳糖は主に乳製品に含まれています。またでん粉は穀類、芋類、豆類などに多く含まれています。

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1. 糖質の分類

食事中の糖質は、血糖値やインスリン分泌、体重増加に関わる栄養素であることから、糖尿病との関連が着目されています。特に、欧米と比べて食事パターンが異なるアジア人では、糖質摂取量と糖尿病との関連を検討した前向きコホート研究はありませんでした。そこで、私たちは糖質摂取量とその後5年間の糖尿病罹患リスクとの関連について調べました。糖質は種類によって代謝経路が異なり、健康への影響も異なる可能性があるため、種類別の関連についても調べました。

糖質摂取量は、妥当性が確認された食物摂取頻度調査票回答結果をもとに、合計単純糖質、合計果糖(図1下の説明参照)、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、ショ糖、麦芽糖、乳糖、でん粉について、1日のエネルギー摂取量に対するそれぞれの糖質の摂取量(%エネルギー/日)を推定しました。糖尿病は、5年後のアンケート調査の既往歴から、新たに糖尿病に罹患した人としました。糖質の種類毎に、人数が均等になるように4つのグループに分け、摂取量が最も低いグループを基準とした場合のその他のグループの、その後5年間の糖尿病罹患リスクを調べました。
 解析に際しては、糖尿病の罹患に影響すると考えられる要因(年齢、地域、職業、糖尿病の家族歴、高血圧の既往、喫煙、飲酒、身体活動、出産回数(女性のみ)、総エネルギー摂取量、カルシウム・マグネシウム・ビタミンD・食物繊維・コーヒー摂取量、体格、でん粉摂取量(単純糖質についての解析の場合)、合計単純糖質摂取量(でん粉についての解析の場合))を統計的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

 

女性では、でん粉の摂取量が多いと糖尿病の罹患リスク増加と関連

5年間の追跡期間で、1190人(男性690人、女性500人)が糖尿病に罹患しました。解析の結果、女性において、でん粉では、摂取量が最も少ないグループと比較して、他のグループでは糖尿病の罹患リスクが高いことがわかりました(図2)。一方、男性ではいずれの糖質においても関連はみられませんでした。

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図2. 種類別の糖質摂取量(4分位)と糖尿病罹患リスクとの関連

 

女性では、単純糖質の摂取量が極端に多いと糖尿病の罹患リスク上昇と関連する可能性

さらに、摂取量と糖尿病リスクの量反応関係を曲線グラフで示した結果、女性で、合計単純糖質では一日あたり30%エネルギー以上、合計果糖については一日あたり14%エネルギー以上というような、極端に摂取量が多い場合に、糖尿病の罹患リスクが増加する可能性が示されました(図3)。また、でん粉については、4分位に分けて解析した結果と同様、摂取量が多いとリスクが増加していました。

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図3. 女性の糖質摂取量(連続量)と糖尿病罹患リスクとの関連

 

この研究結果について

本研究の結果から、日本人女性において、でん粉の摂取量が多いことは糖尿病の罹患リスク増加と関連すること、そして、単純糖質(合計単純糖質や合計果糖)の摂取が、極端に多い場合に、糖尿病の罹患リスク増加と関連する可能性を明らかにしました。
でん粉の摂取量と糖尿病の罹患リスク増加との関連について、私たちはこれまでに、女性では米飯の摂取量と糖尿病リスク増加との関連や、低炭水化物食スコアと糖尿病リスク低下との関連について報告しています。でん粉は炭水化物であり、日本人のでん粉の摂取源が主にお米であることから、今回の結果とも一致するものでした。
でん粉や合計果糖の結果は、一部の欧米の先行研究の結果と一致したものの、合計単純糖質については、欧米の先行研究では関連なしと報告されており、今回の結果とは一致しませんでした。また、今回の研究では女性においてのみ、でん粉、合計単純糖質、合計果糖摂取量と糖尿病罹患リスクの関連がみられました。このように男女で結果が異なったことや、合計単純糖質の結果が欧米の報告と一致しなかったことは、糖質の摂取源の違い(添加された糖質か、あるいは、飲料に含まれる糖質かなど)に影響をうけている可能性があります。さらに、本研究の結果は日本で初めての報告であり、アジアでの報告も少ないため、さらなる研究の蓄積が必要です。
 本研究の限界として、糖質摂取量と糖尿病に影響する様々な要因について、統計学的な調整が十分でない可能性があること、本対象集団の糖質摂取量が比較的少なく、多量摂取での関連が検出しにくかった可能性があることなどが挙げられます。

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