トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >低炭水化物食とがん罹患のリスクとの関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

低炭水化物食とがん罹患のリスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった45~74歳の方々で、アンケート調査に回答いただき、がんの既往のない男女90,171人を、平成27年(2015年)まで追跡した調査結果にもとづいて、低炭水化物食とがん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Sci. 2021年11月Web先行公開)。

近年、低炭水化物食は減量や糖代謝の改善などにおいて、その健康効果が注目されています。炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素は、例えば、炭水化物の摂取が少なければ、たんぱく質や脂質の摂取が多くなるため、全体のバランスとして考える必要がありますが、低炭水化物食では、特に動物性食品から脂質やたんぱく質を多く摂取した場合、健康への好ましくない影響も報告されています。これまでの欧米の先行研究では、低炭水化物食とがん罹患・死亡との関連については、一貫した結果が得られておらず、アジアにおいて、がん罹患との関連を調べた研究はありませんでした。そこで、アメリカのHaltonらが開発した、炭水化物、たんぱく質、脂質の摂取量に基づき算出する『低炭水化物スコア』を用いて、その後のがん罹患リスク(全部位、部位別)について調べました。さらに、脂質とたんぱく質の摂取源を動物性または植物性食品に分けた場合のがん罹患リスクについても調べました。

 

低炭水化物スコア

食物摂取頻度調査票の結果をもとに、1日のエネルギー摂取量を推定し、その中で炭水化物、たんぱく質、脂質からのエネルギー摂取の割合をそれぞれ算出しました。次に、炭水化物からのエネルギー摂取の割合が高いほど低い点数(10点から0点)、脂質とたんぱく質からの割合が高いほど高い点数を与え(それぞれ0点から10点)、それらを合計して低炭水化物スコアとしました。このスコアが高いほど、エネルギー摂取において炭水化物の摂取量が相対的に少なく、脂質やたんぱく質の摂取量が相対的に多いことを意味します。さらに、脂質とたんぱく質の摂取源を動物性食品と植物性食品に分け、動物性食品に基づく低炭水化物スコアと、植物性食品に基づく低炭水化物スコアも算出しました。低炭水化物スコアが低い順に5つのグループに分け、低炭水化物スコアが最も低いグループを基準として、その他のグループのその後の全部位および部位別のがん罹患リスクを調べました。その際、年齢、性別、地域、喫煙・飲酒習慣、体格、糖尿病の既往、身体活動量、エネルギー、コーヒーや緑茶の摂取量を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。(女性の乳がんの解析では閉経の有無、ホルモン剤の服用の有無についても調整)

 

低炭水化物スコアが高いほど全がん、直腸がんの罹患リスクが高かったが、胃がんの罹患リスクは低かった

17年間(中央値)の追跡期間中に、15,203人が何らかのがんを罹患しました。解析の結果、低炭水化物スコアが高い(すなわち相対的に炭水化物の摂取が少なく、たんぱく質および脂質の摂取が多い)ほど、全部位のがん罹患リスクと直腸がんの罹患リスクは高く、胃がんの罹患リスクは低いという関連がみられました(図1)。

412_1

図1. 低炭水化物スコアとがん罹患リスクとの関連

 

動物性食品に基づく低炭水化物スコアが高いほど全がん、大腸がん、直腸がん、肺がんの罹患リスクが高かったが、動物性・植物性食品由来いずれでも低炭水化物スコアが高いほど胃がんの罹患リスクは低かった

次に、たんぱく質および脂質を動物性由来または植物性由来に分けて検討したところ、動物性食品に基づく低炭水化物スコアが高いほど全部位のがん罹患リスクが高く、大腸がん、直腸がん、肺がんも罹患リスクが高くなりました(図2)。
しかし、動物性食品由来と植物性食品由来のいずれの場合でも、低炭水化物スコアが高いほど胃がんの罹患リスクは低いという結果でした(図2、図3)。

412_2

図2. 動物性食品に基づく低炭水化物スコアとがん罹患リスクとの関連

412_3

図3. 植物性食品に基づく低炭水化物スコアとがん罹患リスクとの関連

 

今回の結果から分かること

今回の研究から、低炭水化物スコアが高いほど、全部位のがん罹患リスクが高いことが示されました。また、脂質やたんぱく質の摂取源が、動物性食品か、植物性食品かによって低炭水化物スコアのがん罹患リスクとの関連が異なることがわかりました。
動物性食品に基づく低炭水化物スコアが高いほど全がん、大腸がん、肺がんの罹患リスクが高いという今回の関連については、動物性食品由来のたんぱく質や脂肪により、腫瘍促進因子であるインスリン様成長因子-1(IGF-1)の分泌量が増加し、それに伴い腫瘍細胞の増殖が促進された可能性が考えられます。また、動物性たんぱく質の赤肉や加工肉は、調理や加工の過程で、複素環式アミン、多環式芳香族炭化水素、N-ニトロソ化合物などの発がん物質を生成または含有しており、これらを摂取することで発がんにつながった可能性も考えられます。
その一方で、たんぱく質や脂質の摂取源となる食品によらず、低炭水化物スコアが高いほど胃がんの罹患リスクは低下しました。でんぷん質の多い食事環境(≒高炭水化物)では、胃酸の分泌が減少し、胃がんの罹患リスクとなるピロリ菌の増殖や成長が促進されることが知られています。また、胃酸に含まれる成分がN-ニトロソ化合物の形成を阻害することで、発がん性物質から胃を守る働きがあることも報告されており、これらが、胃がんリスクの低下がみられた可能性として考えられました。
今回の研究では、参加時点での1度しか食事の評価がされていないこと、社会経済状況などが関係する影響を除ききれていない可能性があることなどが、本研究の限界点です。
なお、低炭水化物食とがん罹患のリスクとの関連については、これまでの研究数も少なく結果が一致していないため、今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。

上に戻る