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現在までの成果

血中CRP(C反応性蛋白)濃度とがん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、ベースライン調査のアンケートにご回答下さり、健診などの機会に血液をご提供下さった40~69歳の男女約3万4千人の方々を、平成21年(2009年)まで追跡した結果に基づいて、慢性微小炎症マーカーである、血中CRP濃度とがん罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Br J Cancer. 2022年2月Web先行公開)。

 

炎症とは

細菌やウイルスに感染すると、体内では、異物などを除去するために免疫細胞が活性化し、その結果として発熱などの急激な炎症反応が起こります。急激な炎症は、細菌やウイルスから体を守るために重要な反応である一方で、その一連の反応の中で、細胞に障害を及ぼす活性酸素などがつくられると、発がんにつながることが知られています。近年、興味深いことに、細菌やウイルスに感染していなくても、肥満や生活習慣などの影響により慢性的かつ微小な炎症(慢性微小炎症)が体内で生じていることが報告されています。しかし、慢性微小炎症が、感染による炎症と同様に発がんに関与するかどうかは明らかではありません。

 

CRPとは

血中CRP濃度は、細菌やウイルスの感染により急激に上昇し高い値を示すため、急性炎症のマーカーとして利用されています。加えて、肥満や生活習慣などの影響により生じる慢性微小炎症を捉えるマーカーとしても利用されています。
本研究では、0.04mg/L~5mg/LのCRP濃度を検出できる高感度CRP検査を用いて、慢性微小炎症マーカーとしての血中CRP濃度とがんとの関連を調べました。

 

保存血液を用いた症例コホート研究について

多目的コホート研究のベースライン調査のアンケート調査に加え、血液をご提供くださった男女約3万4千人の方々を対象に、追跡調査を行いました。15.6年(中央値)の追跡期間中に、3,734人のがん罹患が確認されました。今回の研究では、がんに罹患したグループと比べるための対照グループとして、同じ約3万4千人の方々の中から、4,456人を無作為に選びました。がんに罹患する前に保存された血液を用いて、血中CRP濃度を測定し、血中CRP濃度によって、人数が均等になるように4つのグループに分けました。血中CRP濃度が最も低いグループを基準として、他のグループにおける、その後のすべてのがんの罹患や部位別のがん罹患との関連を調べました。解析では、年齢、性別、喫煙状況、飲酒状況、身体活動量、がん家族歴の有無、糖尿病の既往の有無、体格(BMI)など、がんと関連する要因を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。また、男女別の解析も行い、女性の乳がんや子宮がん、卵巣がんの解析では、閉経の有無や閉経年齢、出産数、初潮年齢、ホルモン剤の服用の有無についても統計学的に調整しました。

 

血中CRP濃度の上昇はがん罹患リスク上昇と関連

血中CRP濃度が上昇するにつれて、統計学的有意に、がん全体の罹患リスクは高くなりました。がんの部位別に行った解析では、大腸がん、肺がん、乳がん、胆道がん、腎がん、白血病において、血中CRP濃度が上昇するにつれて、統計学的有意に罹患リスクは高くなりました(図)。

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図 血中CRP濃度とがん全体およびがんの部位別罹患リスク

ハザード比:血中CRP濃度が最も低いグループを1とした場合の、最も高いグループのハザード比
*血中CRP濃度が上昇するにつれて、統計学的に有意ながん罹患リスク上昇が見られた部位

 

まとめ

今回の研究から、慢性微小炎症マーカーである血中CRP濃度が高い人では、がんに罹患するリスクが高いことが分かりました。
今回の結果は、比較的BMIの高い欧米の複数の研究結果を統合したメタアナリシスの結果と一致していました(欧米の先行研究における研究対象集団の平均BMIは、25.9~28.9kg/m2)。今回の研究対象集団の平均BMIは、23.6 kg/m2 と比較的低く、また、今回の研究において、BMIが正常範囲内の集団に限定した解析においても、血中CRP濃度が高い人では、がんに罹患するリスクが高いことが示されました。このことから、慢性微小炎症を引き起こす原因としてもっともよく知られている肥満に関係なく、生活習慣などの影響により生じる慢性微小炎症が、がんの罹患リスクに関連していることが示唆されました。本研究は、世界的に見て肥満の割合が少ないアジア人を対象とした初めての報告です。
慢性微小炎症は、感染症により生じる急激な炎症における発熱等などの症状は現れないものの、急激な炎症と同様の働きが体内で起きていることが基礎研究から報告されています。本研究の結果は、症状は見られない慢性微小炎症も、発がんにつながることを示唆しています。

今回の研究では、比較的頻度の低いがんを含めて、18部位にわたり、血中CRP濃度とがん罹患との関連を検討しました。欧米からの研究においても、大腸がん、肺がん、乳がんにおいて血中CRP濃度の上昇とがん罹患リスクの上昇の関連が報告されており、私たちの結果と一致していました。私たちの研究で関連が観察された胆道がん、腎がん、白血病に関する研究は少なく、また今回分析に用いた症例数が比較的少ないこともあり、今後、さらなる研究の蓄積が必要です。
本研究では、抗炎症薬の服用や何らかの感染の有無については聞いていないため、これらの影響については考慮できないこと、一部のがんにおいては症例数が少ないことなどが、研究の限界点として挙げられます。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っています。

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