多目的コホート研究(JPHC Study)
肉類、魚類、および脂肪酸摂取と非ホジキンリンパ腫罹患との関連
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、大阪府吹田、沖縄県宮古の10保健所(呼称は2019年現在)にお住まいだった45~74歳の方々で、食生活や喫煙などのアンケート調査に回答いただき、がんの既往のない男女93,366人を、平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肉類・魚類および脂肪酸の摂取と非ホジキンリンパ腫の罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Nutr. 2022年6月Web先行公開)。
これまでの研究から、非ホジキンリンパ腫のリスク因子として、放射性物質やウイルス感染、自己免疫性疾患に加え、食事を含む生活習慣が報告されています。肉類などの動物性食品に含まれる飽和脂肪酸は、慢性炎症を誘発し、発がん作用を促進することが報告されており、赤肉の摂取が非ホジキンリンパ腫の罹患リスクを増加させることが欧米の研究から報告されています。その一方で、魚類に含まれる不飽和脂肪酸は抗炎症作用を有しており、多くのがんの罹患率低下と関連していることが報告されていますが、魚類の摂取と非ホジキンリンパ腫罹患リスクとの関連については、これまでに行われた研究からは明らかになっていません。
さらに、これまでに行われてきた研究は欧米での報告が多く、欧米とアジアの間では非ホジキンリンパ腫の主な病型(リンパ腫細胞がどの細胞由来であるか)が異なること、肉類・魚類の摂取量が国により異なることなどから、日本人を対象として肉類・魚類の摂取量と非ホジキンリンパ腫罹患リスクの関連を評価することは重要です。そこで、私たちは多目的コホート研究を用いて、肉類、魚類の摂取量、およびこれらに含まれる脂肪酸摂取量と非ホジキンリンパ腫罹患リスクの関連について調べました。
食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、肉類、魚類の摂取量、脂肪酸の摂取量を推定しました。そして、それらの摂取量によって、人数が均等になるように4つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループと比較した場合の、他のグループのその後の非ホジキンリンパ腫の罹患リスクを調べました。解析には、年齢、性別、地域、体格、喫煙歴、飲酒の頻度、一日あたりの身体活動量を統計学的に調整し、これらの違いによる影響をできるだけ取り除きました。
総脂肪酸摂取量、飽和脂肪酸摂取量が多いグループで非ホジキンリンパ腫罹患リスクが高くなることが示された
追跡期間中に、230人が非ホジキンリンパ腫に罹患しました。非ホジキンリンパ腫の内訳は、106例がびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、26例が濾胞性リンパ腫、7例が慢性リンパ球性白血病、27例が他のB細胞性リンパ腫、21例がT細胞性リンパ腫、43例が他の悪性リンパ腫でした。解析の結果、肉類、魚類の摂取と非ホジキンリンパ腫の罹患リスクの間に関連はありませんでした(図1)。しかし、総脂肪酸摂取量および飽和脂肪酸摂取量が最も多いグループでは、非ホジキンリンパ腫罹患リスクが高くなりました (図2)。その他の脂肪酸摂取量と非ホジキンリンパ腫罹患リスクの関連はありませんでした。
図1.肉類・魚類の摂取量と非ホジキンリンパ腫罹患リスクとの関連
図2.脂肪酸摂取量と非ホジキンリンパ腫罹患リスクとの関連
今回の結果から分かること
総脂肪酸摂取量、飽和脂肪酸摂取量が多いグループでは非ホジキンリンパ腫罹患リスクが統計学的有意に高いことが示されました。脂肪酸と非ホジキンリンパ腫に関する先行研究の結果はさまざまで、統一された見解は得られていませんが、今回の研究では総脂肪酸、飽和脂肪酸の摂取量が最も多かったグループでのみ非ホジキンリンパ腫の罹患リスクが高かったことから、ある一定の量以上を摂取することが非ホジキンリンパ腫罹患の上昇と関与しているのかもしれません。総脂肪酸摂取量、飽和脂肪酸摂取量が多いグループで非ホジキンリンパ腫罹患リスクが高かった理由としては、飽和脂肪酸が炎症促進物質の発現を増加させることによって慢性炎症を引き起こし、これが発がんにつながった可能性が考えられます。
一方で、今回の研究では、食品の種類と非ホジキンリンパ腫罹患リスクの間には関連を認めませんでした。この結果は、複数のコホート研究をまとめたメタアナリシスの結果とも一致していました。
今回の研究の限界点として、食事についての評価を一時点でしか行っていないため、食生活の変化については検討できないこと、非ホジキンリンパ腫の罹患数が少ないことから、病型ごとに分けた解析ができないことなどが挙げられます。