多目的コホート研究(JPHC Study)
死亡場所の規定要因について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。近年、人生の最終段階に関する関心が高まっていますが、希望する死亡場所と実際の死亡場所に違いがあることが指摘されています。しかし、死亡場所と個人の生前の生活習慣や社会背景についての関連を調べた研究はあまりありません。死亡場所は、終末期の生活の質に大きく影響するため、その要因を明らかにすることは重要です。
本研究では、平成2年(1990年)と平成5年(1993年)から、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40-69歳の方々を対象に、平成22年(2010年)までに亡くなった約1.7万人の方々の、生活習慣・社会背景と、死亡場所との関連を調べた結果を専門誌に論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol. 2021年7月公開)
研究方法の概要
死亡時の年齢と、性別、婚姻状況、独居か否か、死亡の原因、死亡場所(自宅・病院・診療所・施設その他)については、利用申請を行い、許可を得て人口動態統計の情報を用いました。一方、職業の有無、喫煙、飲酒、スポーツについては1990-1994年に行われたベースライン調査の情報を用いました。それらから、死亡場所と、婚姻状況、居住状況、死因、生活習慣などの関係を調べました。解析時には、年齢、性別、配偶者の有無、同居者の有無、職業、喫煙、飲酒、スポーツ、死因、地域の影響を統計学的に取り除きました。
未婚、無職、飲酒者、循環器疾患死亡・外因死が、自宅死亡の割合が高かった
1990年から2011年までの死亡数は17,781人(男性11,464名、女性 6,317名)でした。そのうち、2,499人(14.1%)が自宅や介護施設で死亡し、15,282人(85.9%)が病院で死亡していました。 未婚群、飲酒量が多い群、死因が心血管疾患、脳血管疾患、外的要因では自宅死の割合が高い傾向にありました(図1)。喫煙歴の有無、性別では、自宅死との関連は認めらませんでした。
図1:自宅死のリスク
未婚だと心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、外因死が、自宅死亡と関係があった
さらに、婚姻状態と自宅死の関連について死因別に解析を行ったところ、未婚の場合には、心血管疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、外的要因での自宅死が多い結果となりました(図2)。一方がんでは、既婚者の方が、自宅死が多い結果でした。
図2:婚姻状況と死因による自宅死のリスク
この結果からわかること
本研究は、日本の大規模コホート研究で、死亡場所と社会的背景や生活習慣に関する要因との関連を明らかにした、日本で初めての研究です。
今回の結果では、未婚かつ男性であることは自宅死と強く関連していました。また、未婚者において、心血管疾患や脳血管疾患による死亡と自宅死との間に強い関連が認められた一方で、がんとの関連はみられませんでした。この理由として、心血管疾患や脳血管疾患は、がんと違って予測できない突然の死亡が多く、病院に搬送されず、自宅で死亡となることが考えられます。仕事の有無については、男性かつ無職の場合で自宅死が多く、飲酒は週5日以上の飲酒習慣のある方の自宅死が多いという結果でした。社会的な繋がりの有無や、死因となる疾患の特性により、緊急時の発見や病院への搬送が遅れ、自宅死につながっている可能性が考えられます。
本研究では、死因・性別・年齢・婚姻状態は死亡時のデータで、生活習慣については、コホート調査時に得られたもので、死亡時のものではないことが研究の限界です。しかし、本研究は、死亡場所とその関連要因を明らかにするために大規模な調査に基づいた研究で、死亡原因が死亡診断書から得られた正確なデータをもとにしています。今後は、この結果を活かし、人々が最後の重要な時間をどのように希望した場所で向かえるかを考慮するためにさらなる研究が必要です。