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多目的コホート研究(JPHC Study)

甘味飲料摂取と胃がんのリスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、生活習慣病の予防と日本人の長寿と健康寿命の延伸に役立てるために、さまざまな生活習慣や食生活と、がん、脳卒中、心筋梗塞、認知症などの病気との関連性を調べる研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9つの保健所(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、アンケート調査に回答していただいた45~74歳の、がんの既往のない男女74,445人を、平成27年(2015年)まで追跡した調査結果にもとづいて、甘味飲料摂取とその後の胃がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Eur J Clin Nutr 2022年9月Web先行公開)。

甘味飲料は糖尿病や肥満のリスクとなることが報告されており、高血糖は、糖とたんぱく質が結合することによって生成される、終末糖化産物(AGEs:advanced glycation end products)による炎症作用などにより、胃がんリスクと関連する可能性が報告されています。甘味飲料の摂取量や摂取する対象は国や地域によって異なりますが、日本をはじめアジアを対象として甘味飲料摂取と胃がんとの関連を調べた報告はありません。そこで私たちは、甘味飲料の摂取量と胃がんの罹患リスクとの関連について調べました。

食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、清涼飲料水(コーラなど)、100%りんごジュース、100%オレンジジュース、缶コーヒー、乳酸菌飲料、β-カロチン含有飲料、カルシウム飲料、ドリンク剤の摂取量の合計により、甘味飲料の摂取量を推定しました。そして、甘味飲料の摂取量によって、人数が均等になるように5つのグループに分け、摂取量が最も低いグループと比較した場合の、他のグループのその後の胃がん罹患リスクを男女別に調べました。解析にあたっては、年齢、性別、地域、体格、余暇の身体活動、野菜・果物・塩蔵食品摂取量、飲酒・喫煙習慣、がんの家族歴を統計的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

 

甘味飲料摂取量と胃がんの罹患リスクには関連が見られなかった 

 

2015年までの追跡期間中に、2,141人(男性1,465人、女性676人)が、胃がんに罹患しました。
解析の結果、男性(図1)でも女性(図2)でも、甘味飲料摂取量と胃がん全体・噴門部胃がん・非噴門部胃がんの罹患リスク上昇とは関連が見られませんでした。その一方で、男性においては、甘味飲料摂取が多いほど、噴門部胃がんの罹患リスクは減少する傾向にありました(図1)。

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図1 男性における甘味飲料摂取と胃がんリスクとの関係

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図2 女性における甘味飲料摂取と胃がんリスクとの関係

 

今回の結果から分かること

本研究は、甘味飲料摂取と胃がんリスクとの関連を検討した、アジアで初めての研究です。今回の研究から、全体では、男女ともに甘味飲料摂取量と胃がんの罹患リスクには関連が見られませんでした。
本研究は、甘味飲料を多量に摂取することで、AGEsによる炎症作用により胃がんリスクが上昇するという結果は得られませんでした。。しかし、近年の欧米の先行研究においても、甘味飲料摂取を多く摂取することが胃がんリスクの上昇に関連するといった一致した報告はされておらず、今回の私たちの研究結果とも一致しています。
その一方で、甘味飲料摂取量が多いほど、肥満に関連するがんのリスクが高くなることが知られており、国際がん研究機関によると、噴門部(食道と胃がつながる部分)の胃がんは肥満と関連するがんである評価されていますので、部位別に甘味飲料の影響を見てみたところ、男性では、甘味飲料摂取が多いほど、噴門部胃がんの罹患リスクは減少する傾向にありました。先行研究では、柑橘系の果汁が胃がんの罹患リスクを減少させる可能性が示唆されているので、私たちのデータでオレンジジュースを除外した甘味飲料との関連をみてみましたが、結果は変わりませんでした。今後の研究が必要です。
今回検討した甘味飲料の摂取量は、自己申告の食物摂取頻度調査票から推定したものであり、実際の摂取量と異なる可能性があります。また、本研究では、男女とも噴門部胃がんが少なく、甘味飲料摂取量と噴門部胃がんとの関連については慎重に解釈する必要があり、今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。

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