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現在までの成果

p53 Arg72Pro遺伝子多型および肥満度とがん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~69歳の方々のうち、①調査開始時のアンケート調査への回答と血液の提供にご協力下さった男女約3万4千人の方々と、②調査開始から5年後の調査で初めてアンケート調査への回答と血液の提供にご協力下さった男女約1万9千人の方々を、平成21年(2009年)まで追跡し得られた2つの集団の結果を統合して、p53 Arg72Pro遺伝子多型および肥満度とがん罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Sci. 2022年10月Web先行公開)。

がん抑制因子p53の遺伝子には、p53 Arg72Pro遺伝子多型と呼ばれる、DNA配列の個人差があります。その遺伝型には、72番目のアミノ酸が、アルギニン(Arginine, Arg)からプロリン(Proline, Pro)に置き換わることで、ArgArg型, ArgPro型, ProPro型の3つの型が存在します。基礎研究の報告から、ProPro型では、①他の二つの型に比べて、DNA損傷時の細胞死誘導能(アポトーシス誘導能、傷ついた細胞を細胞死に誘導する能力)が低いことから、発がんを促進しやすいと考えられています。一方、②肥満時には、肥満と発がんに関連があると考えられているインスリン感受性が低下しにくい傾向が見られることから、発がんに対して抑制的に作用すると考えられています。このように、p53 Arg72Pro 遺伝子多型の機能には、発がんのメカニズムにおける2面性が報告されていますが、これまでにp53 Arg72Pro遺伝子多型とがん罹患リスクとの関連を、肥満度(body mass index: BMI)によりグループ分けして解析した観察研究はありませんでした。
そこで本研究では、p53 Arg72Pro 遺伝子多型の2面性に着目して、p53 Arg72Pro遺伝子多型およびBMIとがん罹患リスクとの関連を調べました。

 

保存血液を用いた研究の方法について 

本研究で対象とした調査開始時の集団(約3万4千人)を16.9年(中央値)追跡したところ、3,750人のがん罹患が確認されました。がんに罹患したグループと比べるため、対照グループとして、12,722人を約3万4千人から無作為に選択しました。同様に、調査開始から5年後の集団(約1万9千人)から、11.9年(中央値)の追跡によって、1,081人のがん罹患が把握され、対照グループとして、3,894人が無作為に選択されました。最終的に、2つの集団のデータを統合して分析しました。

p53 Arg72Pro遺伝子多型の種類により、対象者をArgArg型またはArgPro型のグループとProPro型の2つのグループに分け、全がん罹患リスクおよび肥満関連がん(*)の罹患リスクへの影響を検討しました。解析にあたっては、年齢、性別、遺伝情報に基づく地域集団、喫煙状況、飲酒状況、身体活動量、糖尿病の既往の有無など、他の要因による偏りが結果に影響しないように、統計学的に調整を行いました。更に、BMIが25kg/m2未満のグループと25kg/m2以上のグループに分けて、肥満度によりp53 Arg72Pro遺伝子多型のがん罹患リスクへの影響が異なるかどうかを統計学的に検討しました。
(*)肥満関連がん:大腸がん、食道腺癌、胆嚢がん、胃がん(噴門部)、肝がん、髄膜腫、多発性骨髄腫、口腔がん、膵臓がん、腎がん、甲状腺がん、前立腺がん、閉経後乳がん、卵巣がん、子宮体がん

 

p53 Arg72Pro遺伝子多型および肥満度とがん罹患リスクとの関連

BMIを考慮しない場合、p53 Arg72Pro遺伝子多型とがん罹患リスクとの間に統計学的に有意な関連は認められませんでした(図なし)。続いて、BMIによる層別分析を行ったところ、BMI<25kg/m2のグループでは、ArgArg型またはArgPro型と比べて、ProPro型では全がん罹患・肥満関連がん罹患ともに、リスク上昇が観察されました(図)。その一方で、BMI≧25kg/m2のグループでは、ArgArg型またはArgPro型と、ProPro型の間に差は見られませんでした。以上のことから、BMIが25kg/m2未満のグループと25kg/m2以上のグループの間では、p53 Arg72Pro遺伝子多型のがん罹患リスクに対する影響が異なることが示唆されました。

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図. BMIにより層別した際の、p53 Arg72Pro遺伝子多型とがん罹患リスクとの関連

 

まとめ

本研究の結果から、BMI <25 kg/m2のグループにおいて、ProPro型は、 ArgArg型またはArgPro型に比べて、がん罹患リスクが上昇する可能性が示唆され、発がんを促進する効果がみられました。その一方で、BMI>25kg/m2のグループでは、ProPro型のがん罹患リスクの上昇は観察されず、発がんを抑制する効果がみられ、BMIにより、p53 Arg72Pro遺伝子多型のがん罹患リスクに対する影響が異なることが示唆されました。
これまでに、BMIで層別化して、p53 Arg72Pro遺伝子多型とがん罹患リスクとの関連を評価した疫学研究はありませんでした。本研究の結果は、p53 Arg72Pro遺伝子多型に関する基礎研究の結果と一致しており、p53 Arg72Pro 遺伝子多型の発がんメカニズムにおける2面性を示唆しています。
私たちは、日々の暮らしの中で、さまざまな有害刺激を受けており、体内ではDNAの損傷が絶えず起きています。本研究において、BMI <25 kg/m2のグループでは、日常生活で生じるDNA損傷の影響を受けて、ProPro型における発がんの促進作用が顕在化し、がん罹患リスクの上昇が観察された可能性があります。一方、BMI >25 kg/m2のグループでは、DNA損傷と過体重の両方の影響を受け、DNA損傷によるProPro型の発がん促進の影響が、過体重時の発がんに対するProPro型の抑制的な作用により打ち消され、がん罹患リスクに差がみられなかった可能性があります。

本研究では、他の観察研究と同様に、未知の交絡因子の影響については考慮できないこと、肥満以外の状態や、他の遺伝子との交互作用などを考慮していないこと、部位別のがんにおいて検討できなかったことなどが、研究の限界点として挙げられます。今後、さらなる研究の蓄積が必要です。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。

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