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多目的コホート研究(JPHC Study)

慢性腎臓病とがん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2015年現在)管内にお住まいで、1998~2000年度および2003~2005年度に実施された糖尿病調査にご協力いただいた方々のうち、血清クレアチニンのデータがあり、初回の調査時までにがんに罹患していなかった21,978人を対象として、腎機能の指標である推算糸球体濾過量(eGFR)とがん罹患リスクとの関係を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Nephrol Dial Transplant. 2022年10月Web先行公開)

慢性腎臓病は、腎機能の低下が持続する疾患です。慢性腎臓病の診断では、血清クレアチニン、性別、年齢から計算されるeGFRが指標となり、一般的には、eGFRが60 ml/min/1.73 m2未満の状態が3か月持続した場合、慢性腎臓病と診断されます。慢性腎臓病では、代謝異常、免疫機能低下、血管内皮細胞の異常などが起きやすいと報告されており、がんとの関連についても、これまで海外のコホート研究で示唆されてきました。しかし、日本人集団を対象とし、がんと関連しうる生活習慣要因を考慮した研究は十分ではありませんでした。そこで、本研究では、この関係を、「多目的コホート研究」の糖尿病調査のデータを用いて調べることを目的としました。

本研究では、eGFRの値から、対象者を先行研究やガイドラインにあわせて4つのグループに分けました。
①45 ml/min/1.73 m2未満
②45-59 ml/min/1.73 m2
③60-89 ml/min/1.73 m2
④90 ml/min/1.73 m2以上
そして、60-89 ml/min/1.73 m2のグループを基準として、他のグループのその後の全がんリスク、臓器別がんリスクを調べました。

解析においては、年齢、性別、居住地域、BMI、喫煙状況、アルコール摂取量、余暇の身体活動、野菜摂取量、肉類摂取量、塩蔵食品摂取量、コーヒー摂取、緑茶摂取、心血管疾患の既往、尿蛋白定性反応、糖尿病の有無およびHbA1c値、降圧薬の内服の有無を統計学的に調整し、これらの要因による結果への影響を出来る限り取り除いたうえで、がんリスクを推定しました。

 

eGFR低下ががんと関連するという、明確な関連はみられなかった

eGFR 60-89 ml/min/1.73 m2のグループと比較して、いずれのグループでもeGFRとがん罹患の関連を認めませんでした(図1)。

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図1 eGFRとがん罹患リスクとの関連(全体)

男女別に分けた解析では、男性において、eGFR 90 ml/min/1.73 m2以上のグループで統計学的有意ながんリスクの増加を認めましたが、女性においては、いずれのグループでも明らかながんリスクの増加を認めませんでした(図2)。

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図2 eGFRとがん罹患リスクとの関連(男女別)
※数値は点推定値

 

この研究について

今回の研究では、日本人集団において慢性腎臓病ががんと関連するという明確な関連は得られませんでした。その背景として、慢性腎臓病とがんの両方に影響を及ぼしうる要因が発がんと関連しており、慢性腎臓病そのものとの明確な関連が得られなかった可能性があげられます。また先行研究では、慢性腎臓病が高度であるほど、すなわちeGFRが低値であるほど、がんのリスクが段階的に上昇することが報告されています。一方本研究では、 eGFR 45 ml/min/1.73 m2未満に該当する腎機能の低下がみられる方が少なく、さらにそのうち、eGFR 30 ml/min/1.73 m2未満の高度の機能低下を示す慢性腎臓病に該当する方がほぼ含まれなかったことから、関連がみられなかった可能性も否定はできません。
その一方で、男性においては、eGFR 90 ml/min/1.73 m2以上のグループで全がんリスクが高くなっていました。この理由として、eGFRを計算するのに必要な血清クレアチニンの、以下の特徴が考えられます。原則として、血清クレアチニンは腎機能の影響を受け、eGFRは、血清クレアチニンの値が低いほどeGFRは高く、血清クレアチニンが高いほどeGFRは低くなります。しかし、血清クレアチニンは、腎機能のみならず、一部、筋肉量の影響もうけ、筋肉量が多いほど血清クレアチニンは高く、少ないほど血清クレアチニンは低くなります。つまり、実際の腎機能は同じくらいであっても、筋肉量に差がある場合、筋肉量の少ない方でeGFRが高くなるという現象が起こり得ます。eGFR 90 ml/min/1.73 m2以上のグループの方の中には、何らかの疾患やフレイルの合併により筋肉量が低下したことでeGFRが高くなった方が、ほかのグループと比較して多かった可能性もあり、eGFRが高くなってしまうような腎機能以外の要因(上記の筋肉量など)が今回の結果を説明しうると考えられます。

研究の限界としては、血清クレアチニン以外に腎機能の推定に使われ、筋肉量の影響を受けにくいとされる血清シスタチンCの情報が得られなかったこと、他の観察研究と同様、未測定の交絡因子の影響については考慮できないことなどが挙げられます。
慢性腎臓病とがんのいずれにも関連する要因をさらに検討していくことで、両疾患の予防につなげていくことが望まれます。

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