多目的コホート研究(JPHC Study)
ビタミンD摂取と死亡との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった45~74歳の方々のうち、がん、循環器疾患、肝疾患になっていなかった約9万4千人を平成30年(2018年)まで追跡した調査結果にもとづいて、ビタミンD摂取量と死亡との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Eur J Epidemiol 2023年1月Web先行公開)。
ビタミンDは、骨の健康維持だけでなく、がんや循環器疾患、糖尿病、感染症など様々な疾患に予防的に働く可能性があることを示唆する実験研究・疫学研究の報告が多数あります。疫学研究では、血中のビタミンD濃度が高いことは死亡リスクの低下と関連していることが報告されていますが、食事からのビタミンD摂取と死亡との関連を検討した過去の研究では明らかな関連は認められていません。その理由として、ビタミンDは日光(紫外線)を浴びることにより皮膚で多量に生成されるため、体内の総ビタミンD量における食事由来のビタミンDの寄与が相対的に少ないためかもしれません。本研究では、こうした点を解析で考慮した上で、ビタミンD摂取と全死亡および主要な疾患による死亡との関連を調べました。
女性、高緯度地域居住者、高血圧患者、カルシウム摂取量が多いグループにおいて、食事からのビタミンD摂取は全死亡のリスク低下と関連していた
食品摂取頻度調査への回答から推定されたビタミンD摂取量により対象者を5つのグループに分類し、その後約19年の追跡期間中に発生した死亡(全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、呼吸器疾患死亡)との関連を調べました。その結果、ビタミンDの摂取が3番目および4番目に多いグループでは、最も少ない群と比べて、全死亡のリスクが6~7%低くなっていました(図1)。次に、性別、年齢別、地域別、高血圧既往の有無別、カルシウム摂取の摂取量別による、ビタミンD摂取と全死亡との関連を調べました(図2)。この調査では、高緯度地域居住者を、岩手、秋田、新潟、長野とし、低緯度地域を、その他の地域と定義しました。なお、新潟と長野は、緯度の他、冬期の積雪・気温を考慮して高緯度地域に分類しました。全対象者での解析では、ビタミンD摂取が多ければ多いほど全死亡リスクが低下するという関連は認めなかったものの、女性、高緯度地域居住者、高血圧患者、カルシウム摂取が多い者では、ビタミンD摂取量が多いほど全死亡のリスクは統計学的有意に低くなっていました。
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図1 ビタミンD摂取と全死亡および主要死因別死亡との関連
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図2 性、年齢、地域(注)、高血圧既往、カルシウム摂取によるビタミンD摂取と全死亡との関連
(注)この調査では、高緯度地域を、岩手、秋田、新潟、長野とし、低緯度地域を、その他の地域と定義した。なお、新潟と長野は、緯度の他、冬期の積雪・気温を考慮して高緯度地域に分類した。
ビタミンDの摂取が多いグループでは脳梗塞および肺炎の死亡リスクが低かった
主要な疾患による死亡では、ビタミンD摂取が多いグループで、脳梗塞死亡および肺炎死亡のリスクが統計学的有意に低く、ビタミンD摂取が最も多いグループでは、最も少ないグループと比較して、脳梗塞は38%、肺炎は21%、死亡リスクが低いという結果でした。
今回の研究では、女性、この研究で定義された高緯度地域居住者、高血圧既往者、カルシウム摂取が多い者で、全死亡のリスクが低いという結果が得られました。ビタミンDは紫外線を浴びることによって皮膚で生成されるため、日光を浴びることが比較的少ないと考えられる女性や高緯度地域居住者では、日光の影響よりも、食事からのビタミンD摂取による予防的作用の影響が相対的に大きくなったことが考えられます。また、ビタミンD摂取と死亡リスク低下との関連はカルシウムの摂取量によっても異なり、カルシウムの摂取量が多いグループにおいてのみ、関連を認めました。ビタミンDは腸管でのカルシウム吸収を促進する作用があるため、ビタミンDとカルシウムの高摂取は、血管の石灰化を介して循環器疾患のリスクを高める可能性が指摘されています。しかし、今回の研究では、カルシウム摂取量が多いグループにおいてのみ、ビタミンD摂取と死亡リスク低下との関連を認めたことから、日本人のようなカルシウム摂取量が比較的少ない集団においては、十分な量のカルシウムを摂取することで、循環器疾患の発症が予防され、結果として死亡リスクの低下につながる可能性があります。
主要な疾患による死亡では、ビタミンD摂取は脳梗塞死亡および肺炎死亡のリスク低下と関連していました。脳血管疾患のうち、脳梗塞のみでリスクが低下した理由ははっきりしませんが、血中ビタミンDとの関連を調べた先行研究においても同様の結果が報告されています。
今回の研究では、食事調査票への回答から推定したビタミンD摂取量を用いているため、生涯のビタミンD摂取量は考慮できていません。また、性や年齢などによる層別化解析では、人数が少ないグループもあるため、結果の解釈には注意が必要です。さらに、関係する要因の影響を統計学的に除いて解析しましたが、未測定の交絡因子の影響が残っているという限界もあります。