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多目的コホート研究(JPHC Study)

労働時間とがん罹患の関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~64歳の方々のうち、アンケート調査で労働時間を回答いただき、がんの既往がなかった男女26,738人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、労働時間とがん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Occup Health. 2022年1月公開)。

従来から、日本の長時間労働は社会問題となっており、近年は改善傾向にあるものの、未だ、ドイツ、フランスなどのヨーロッパの諸外国に比べると、日本の労働時間は長い傾向にあります。長時間労働により、ワークライフバランスが崩れるほか、糖尿病や鬱などといった病気の発生が報告されています。いくつかの先行研究では、労働時間が長いことは乳がんのリスクが高くなることと関係しているという報告があり、これは睡眠時間が少なくなる可能性が考えられています。また、身体活動が低いとがん罹患リスクが高くなることが報告されていますが、座ったまま(座位)の時間が長い職業では身体活動が低くなり、座位の労働時間が長いとがんのリスクが高くなるかもしれません。しかしながら、日本人において、労働時間とがん罹患との関連については報告されていません。そこで、私たちは、労働時間とがん(全がん、肺がん、胃がん、肝臓がん、大腸がん、前立腺がん、乳がん)の罹患との関連を調べました。

アンケート調査票の労働時間についての回答をもとに、1日の労働時間が6時間以下のグループ、7~8時間のグループ、9~10時間のグループ、11時間以上のグループに分け、一般的な労働時間である1日当たり7~8時間のグループと比較して、その他のグループのその後のがんの罹患リスクが何倍になるかを調べました。解析では、性別、年齢、地域、体格、喫煙歴、喫煙期間、1日の喫煙本数、飲酒量、睡眠時間、職業について統計学的に調整し、グループによるこれらの違いができるだけ結果に影響しないように配慮しました。上記に加え、肝臓がんの罹患との関連の解析には、肝炎の既往歴を、大腸がんの罹患との関連の解析には身体活動量を、乳がんの罹患との解析には初潮年齢、出産回数、授乳歴、閉経の有無についても統計学的に調整したうえで、解析を行いました。

 

長時間労働とがん罹患のリスクには関連がみられなかった

追跡期間中に、2万6千人のうち481人がなんらかのがんと診断されました。解析の結果、長時間労働による全がんの罹患リスクの明らかな上昇はみられませんでした(図1)。しかしながら、肝臓がんについては、労働時間が7-8時間のグループと比較して、労働時間が1日当たり6時間以下のグループで、肝臓がんの罹患リスクは約3.2倍と、統計学的に有意な関連が見られました(図2)。

 

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図1.労働時間とがん(全がん)罹患リスクとの関連

 

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(クリックして画像拡大)

  図2.労働時間と肝臓がん罹患リスクとの関連

 

今回の結果から分かること

今回の研究から、長時間労働と全がん罹患リスクとは関連がないことが示されました。これまでに実施されたヨーロッパでの研究でも、本研究と同様に、長時間労働により、全がん罹患のリスクは上昇しないことが報告されています。
なお、今回の研究で、労働時間が短いグループで肝臓がん罹患のリスクが高いという結果については、労働時間が短いことによるのではなく、肝臓がんの前病変である肝炎を患っている場合、倦怠感などの症状が原因で短時間しか労働できないため、このような結果となった可能性があります。
今回の研究では、がん罹患のリスクに関係のあることが報告されている夜勤の有無や社会経済要因といった因子について調整されていないことなどが限界点として挙げられます。
今回の研究で評価したがん種のうち、前立腺がんや乳がんについては、長時間労働により罹患のリスクが上がる傾向にあるとの過去の報告もあります。今回の研究では、長時間労働と前立腺がん若しくは乳がん罹患のリスクとの関連性が明らかではありませんでした。それぞれのがんの症例数が十分ではなかった可能性が考えられ、長時間労働とこれらのがん罹患との関連性をより詳細に明らかにするためには、今後のさらなる研究が必要です。

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