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多目的コホート研究(JPHC Study)

がんサバイバーと肺炎死亡リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、研究開始時にがんになっていなかった40歳から69歳の男女約10万人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、追跡期間中にがんになった方とならなかった方を比較し、がん診断後の肺炎死亡リスクとの関連を調べました。その研究結果を論文発表したので紹介します(Cancer Medicine 2022年11月公開)。

COVID-19を含め、近年繰り返し発生する新興呼吸器感染症によって、がん患者またはがんサバイバーにおける肺炎死亡リスクが重要視されています。がん患者は治療によって免疫機能が弱い状態になることから、感染症に対して一般集団よりも抵抗力が弱いと考えられ、治療したがんの部位によっては肺炎による入院や死亡のリスクが高いことが報告されています。また、がんの治療だけでなく、がん治療による合併症やがんのリスク要因として知られている喫煙などの要因が、肺炎の予後に影響を及ぼしている可能性が考えられます。しかし、がんサバイバーと肺炎死亡リスクに関する先行研究が少ないため、今回は日本人を対象として、がん罹患による肺炎死亡リスクとの関連を調べました。

今回の研究では、研究開始時から追跡期間中にがんと診断された方をがんサバイバーと定義しました。何らかのがんと診断された方は14,613人でした。そのうち、先行研究で肺炎死亡リスクが高いと報告されている、肺がん、食道がん、頭頚部がん、血液がんと診断された方はそれぞれ1,885人、411人、426人、747人でした。今回の解析では、性別、アンケート調査時の年齢・居住地域、喫煙状況・受動喫煙・体格・飲酒状況・余暇の運動習慣・糖尿病の既往の有無・コーヒーや緑茶摂取状況に基づき傾向スコアを計算し、がんと診断された方それぞれに対して、がんに罹患しなかった方63,467人を同様の傾向スコアでマッチングしました。

 

がんに罹患したグループでは肺炎死亡リスクが上昇する

解析の結果、がんに罹患しなかったグループと比較して、がんに罹患したグループでは、追跡期間全体における肺炎死亡リスクが高いという結果が見られました(図1)。がんに罹患した方をさらに診断後年数や診断時ステージで分けると、がんに罹患しなかった人と比べ、がん罹患後2年未満のグループと、診断時にリンパ節転移があったグループではがん罹患後の肺炎死亡リスクが高いことが分かりました。一方で、がん罹患後5年以上経過しているグループでは肺炎死亡リスクの上昇はみられませんでした。

 

(クリックで画像拡大)

図1.がん罹患と肺炎による死亡リスク

 また、がんの部位別の分析では、がんに罹患しなかったグループと比べて肺がん、食道がん、頭頚部がんでは、がん罹患後の肺炎死亡のリスクが上昇していました(図2)。一方で、血液がんやその他のがんに罹患したグループでは統計学的に有意な肺炎死亡リスクはみられませんでした。

(クリックで画像拡大)

図2.がん種と肺炎による死亡リスク

 

この研究から明らかになったこと

今回の研究では、がんに罹患したグループでは肺炎死亡リスクが高いことが明らかになりました。先行研究では、がん罹患およびがん治療の副作用による免疫機能の低下によって肺炎死亡のリスクが高まることが示されています。一方、がんのリスク要因でもある喫煙習慣などは肺炎の予後にも影響を及ぼし、また肺炎の予後に影響を及ぼす疾患(循環器疾患など)の併発によって肺炎死亡リスクの上昇がみられた可能性があります。診断後2年未満および診断時にリンパ節転移があったグループの肺炎死亡リスクが高い理由は、がん治療や進行がんによる免疫機能の低下による影響が考えられます。また、肺がん、食道がん、頭頚部がんは呼吸機能低下や外科手術後の肺炎により肺炎死亡リスクが高いことが考えられます。
その他のがんの部位では、日本人に多いがん種等に分類して分析しましたが、肺炎死亡リスクとの関連は見られませんでした。これは、肺炎以外の原因で死亡したこと、がん診断後の健康的な行動変化により肺炎死亡が回避されたなど様々な理由が考えられます。
しかし、今回の研究ではがんと診断された後の行動変化やがん治療内容を考慮した分析をしていないため、今後もさらなる研究が必要です。

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