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多目的コホート研究(JPHC Study)

食品摂取の多様性と要介護認知症との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣とがん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。今回の研究は平成5年(1995年)と平成8年(1998年)に、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東の5保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、調査開始時の食事調査票に回答し、虚血性心疾患・脳卒中・がんの既往がない38,797人(45~74歳;男性17,708人、女性21,089人)の方を対象としました。平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづき、食品摂取の多様性(以下、食多様性)と介護保険認定情報から把握した認知症(以下、認知症)との関連を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Clin Nutr. 2023年2月Web先行公開)。

食品摂取の多様性

「色々なものを食べると健康に良い」と言われています。JPHC研究では、1日に多様な種類の食品を摂取することが女性における全死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡リスクの低下と関連することを報告しました(https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8246.html)。今回、高齢社会で問題となっている認知症に焦点をあて、食事摂取頻度調査票に含まれる「133項目の食品・飲料(アルコールを除く)を1日に何種類摂取しているのか」を得点化(食多様性スコア)し、食多様性スコアとその後の認知症発症との関連を調べました。食多様性スコアによって、対象者を人数が均等になるように5つのグループに分類し、食多様性スコアが最も低いグループを基準に、その他のグループにおけるその後の認知症発症リスクを調べました。また、脳卒中発症を伴わない認知症発症リスクについても調べました。 

女性では多様な食品の摂取は認知症のリスク低下と関連

11.0年(中央値)の追跡期間中に、4302人(11.1%)が認知症を発症しました。食多様性と認知症との関連について、女性では1日に摂取する食品の種類が最も少ないグループに比べて、最も多いグループで、認知症発症のリスクは33%低下していました(図)。一方、男性では食多様性と認知症発症との関連はみられませんでした。また、脳卒中発症を伴わない認知症発症に限定した場合でも結果は変わらず、女性では統計学的に有意な関連が保たれましたが、男性では関連を認めませんでした。

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(クリックで画像拡大)

図1.食多様性(食品群/日)5群と要介護認知症発症リスクとの関連

※保健所ごとに層別化後、年齢、BMI、糖尿病既往歴、アルコール摂取、喫煙、総エネルギー摂取、ビタミンサプリメント摂取、身体活動、職業、同居者の有無を統計学的に調整

 

独居の男性では多様な食品の摂取が認知症リスクを一部軽減

男性全体では食多様性と認知症に関連がありませんでしたが、一人暮らしの男性に限った場合、多様な食品の摂取が認知症リスクの低下と関連がありました(第1群を基準とした際の第2群のオッズ比0.25 (95%CI=0.09–0.67)、第5群のオッズ比0.33(0.11–0.99))。認知症発症に影響すると考えられるその他の要因の影響を統計学的に考慮しても、食多様性が最も高いグループでは認知症のリスクが低下していました。同居者がいる男性ではこのような関連は認められませんでした。

この研究について

今回の研究では、中高年期の女性において、多様な種類の食品を摂取することが将来の認知症を予防する可能性が示されました。食多様性が高い人では、様々な栄養素の摂取状況が好ましいため、多様な食品の摂取により脳内の栄養状態が良くなり、認知症発症が予防された可能性があります。ただし、これらの関連は女性でのみ認められ、男女差がありました。
認知症は、男女によってアルツハイマー型や血管病変など、発症しやすい病型が異なるため、これらの病型の違いが今回の研究の男女差に関わることが考えられました。しかし本研究では脳卒中の既往に関わらず食多様性と認知症の関連は同様であったため、男女の結果の違いは病型の違いによるものと結論づけることはできませんでした。
 男女差を説明する他の要因として、男女の食関連行動の違いが影響している可能性が考えられました。日本人高齢者を対象とした研究では、女性は同居者の有無に関わらず食事の準備を行っている傾向がありますが、男性は独居の場合は食事の準備をしても、同居者がいる場合は食事の準備をしない傾向が報告されています。本研究では、食事の準備に関するデータは収集していないため推測の域を出ませんが、食多様性の高い食事をとるための食行動(例えば料理をする、献立を考える)が認知機能の維持、ひいては認知症発症を予防したことが考えられます。
認知症は加齢ととともに発症率が高くなりますので、後期高齢者の増加に伴い、認知症有病者の更なる増加が懸念されています。現在のところ、根治治療薬はなく、その予防や発症遅延、共生社会の構築に力が注がれています。認知症発症リスクを少しでも低下させる上で、色々な食品を食べることや食多様性の高い食事をとるための食行動は効果的といえそうです。

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