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多目的コホート研究(JPHC Study)

緑茶・コーヒーの摂取と腎がんのリスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約10万2千人の方々を、平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、緑茶・コーヒー摂取と腎がんの罹患のリスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Sci Rep. 2022年11月公開)。

近年、腎がんの罹患率は世界的に増加していますが、食習慣やその他の生活習慣と腎がん罹患との関連を調べた報告は少なく、よくわかっていません。緑茶やコーヒーは抗酸化作用のあるカフェインやポリフェノールが豊富であり、一部のがんについては予防的な効果が報告されていますが、緑茶やコーヒーの摂取と腎がん罹患のリスクの関連について調べた疫学研究、特に日本人で行われた前向きコホート研究は少ないのが現状です。そこで、私たちは、日本人における、緑茶・コーヒーの摂取と腎がんのリスクとの関連を調べました。

緑茶・コーヒーの摂取については、調査開始時の食事摂取頻度調査票の回答を用いてグループ分けを行いました。緑茶については、「飲まない」、「1日1杯未満」、「1日1-2杯飲む」、「1日3-4杯飲む」、「1日5杯以上飲む」の5つのグループに、コーヒーについては、「飲まない」、「1週間に1-2日飲む」、「1週間に3-4日飲む」、「1日1-2杯飲む」、「1日3杯以上飲む」の5つのグループに分けました。それぞれ、飲まないグループを基準として、その他のグループにおける腎がんの罹患のハザード比を算出しました。解析では、年齢、性別、居住地域、体格指数(body mass index: BMI) 、喫煙、飲酒、高血圧の既往、糖尿病の既往、腎臓病の既往と、身体活動量について統計学的に調整し、これらによる影響をできるだけ取り除きました。

女性における緑茶・コーヒー摂取量が多いと腎がんの罹患リスクは低かった

本研究では、平均で約19年間の追跡調査中に、286人が腎がんに罹患しました。1日に5杯以上緑茶を摂取する女性のグループでは、腎がんの罹患リスクが55%低く、摂取量が多いほど腎がんの罹患リスクは低いことが示されました(図1)。また、1日に1-2杯コーヒーを摂取する女性のグループでは、腎がんの罹患リスクが62%低くなっていましたが、摂取量が増えるほど腎がんのリスクが低くなるような関係は見られませんでした(図2)。一方で、男性では、緑茶とコーヒーのいずれにおいても、腎がんの罹患リスクとの関連は見られませんでした。

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図1.緑茶摂取と腎がん罹患リスクとの関連

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図2.コーヒー摂取と腎がんの罹患リスクとの関連

今回の結果は、これまでの研究の結果を支持するものでしたが、なぜ緑茶をよく摂取する人で腎がんの罹患リスクが低くなるのかについては、よくわかっていません。緑茶に含まれるカテキンとテアフラビンの抗発がん効果が、細胞や動物を用いた研究で報告されていることから、緑茶に含まれるこれらの物質が発がんの予防に寄与した可能性があります。また、性別により腎がんの罹患リスクに違いがあったことについては、性ホルモンの分泌量の違いが考えられます。性ホルモンであるエストロゲンには、がん細胞の増殖を抑制する機能があることが知られており、これまでの研究から、緑茶の摂取とエストロゲンの代謝との間には関連があることが示唆されています。このことが今回の結果に影響した可能性がありますが、このメカニズムが正しいかどうかを判断するためには、さらなる研究が必要です。

さらなる研究結果の蓄積が必要

今回の研究は、アジア人を対象とした大規模コホートにおける緑茶・コーヒー摂取と腎がんの罹患リスクの関係について調べた、初めての研究です。本研究から、緑茶の摂取頻度が高い女性で腎がん罹患リスクが低いことが示されました。また、男性と女性の腎がん罹患リスクが異なる可能性が示されました。
今回の研究では、緑茶・コーヒーの摂取量について、研究参加時点の一度しか把握できていないことや、社会経済状況などの影響を除ききれていない可能性があることなどが限界点として挙げられます。今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。

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