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多目的コホート研究(JPHC Study)

非喫煙女性における受動喫煙と循環器疾患発症のリスクについて

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~59歳のたばこを吸わない女性約2万4千人の方々を対象に、平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、受動喫煙と循環器疾患発症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表したので紹介します(Prev Med. 2022年9月公開)。

 これまでの研究から、喫煙習慣がない女性でも、受動喫煙の影響を受けることが報告されています。国内外の先行研究のメタアナリシス(複数の研究結果をまとめた研究)では、受動喫煙は、虚血性心疾患、脳卒中、循環器疾患の発症および死亡との関連が認められています。厚生労働省による2003年の調査では、日本の女性の40%が、ほとんど毎日家庭内での受動喫煙に曝されており、2004年の調査では、日本の男性の51%が喫煙していることが報告されています。そこで、本研究では、夫からの受動喫煙が、たばこを吸わない妻の循環器疾患の発症に影響を及ぼすかどうかについて調べました。

 研究開始時に行ったアンケート調査で、これまでにたばこを吸ったことがないと回答した女性を研究の対象としました。夫自身のアンケート回答結果から、対象者を「夫が非喫煙者」、「夫が過去喫煙者」、「夫が現在喫煙者」の3つのグループに分け、「夫が非喫煙者」、もしくは「夫が過去喫煙者」のグループを基準とした場合の、それ以外のグループの循環器疾患(虚血性心疾患または脳卒中)発症のリスクを比較しました。分析の際に、地域、年齢、体格指数(BMI)、飲酒状況、高血圧と糖尿病の既往歴の有無、高脂血症の服薬の有無、月経の有無を統計学的に調整し、これらの影響をできる限り取り除きました。

 

夫からの受動喫煙で非喫煙女性の虚血性心疾患の発症リスクが上昇

 平均約18年の追跡期間中に、合計103人が虚血性心疾患と診断されました。夫の喫煙状況別に虚血性心疾患の発症率を比較してみると、追跡期間が10年以上の場合、現在受動喫煙のないグループの女性(夫が非喫煙者、もしくは夫が過去喫煙者)と比べて、現在受動喫煙のあるグループの女性(夫が現在喫煙者)は、虚血性心疾患の発症リスクが約2倍、全循環器疾患の発症リスクは約1.3倍、統計学的に有意に高いことが示されました (図1)。一方、脳卒中の発症リスクは統計学的に有意ではありませんが約1.2倍高い傾向を示しました (図1)。

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図1.非喫煙女性における夫の喫煙状況と循環器疾患発症リスクとの関係

 

 さらに、虚血性心疾患の発症リスクについて、「夫が非喫煙者」のグループを基準とした場合の解析も行ったところ、「夫が現在喫煙者」のグループの女性では、虚血性心疾患の発症リスクが約2.3倍と統計学的に有意に高くなっていました(図2)。

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図2.非喫煙女性における夫の喫煙状況と虚血性心疾患の発症リスクとの関係

 

まとめ

 今回の研究では、夫からの受動喫煙がある非喫煙女性では、全循環器疾患、特に虚血性心疾患の発症リスクが上がることがわかりました。
 欧米や北欧の先行研究でも、受動喫煙の機会がある非喫煙女性の虚血性心疾患の発症リスクが約60%~90%高いことが報告されており、本研究の結果は欧米や北欧の結果を支持するものと考えられます。ニコチンなどタバコの煙に含まれる化合物は、血小板活性化、血管内皮障害など心血管系の複数の生理学的経路に影響を与えることから、虚血性心疾患の発症リスクを上昇させることが知られていますが、受動喫煙でも、その影響を受けて虚血性心疾患の発症リスクが高くなるものと考えられます。
 以前のJPHC研究による本人の喫煙と循環器疾患発症に関する報告によると、非喫煙者と比較した、現在喫煙している女性の虚血性心疾患の発症リスクは約3倍(喫煙と虚血性心疾患発症との関連について)、脳卒中は約1.9倍でした(男女別、喫煙と脳卒中病型別発症との関係について)。本研究での受動喫煙の結果も、虚血性心疾患のほうが脳卒中の発症リスクよりも高く、本人の喫煙と循環器疾患発症リスクとの結果と合致していました。
 今回の研究では、夫が喫煙しているとき家の中のどこにいるか、また喫煙時に妻が近くにいるかということや、受動喫煙の期間の影響や、家の中における夫以外の喫煙者による受動喫煙による影響について検討することができなかったことなどが限界点として挙げられます。

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