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多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒と認知症との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東の5保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、調査開始時のアンケートに回答した45~74歳の約4万3千人の男女を平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづいて、アンケートから把握した飲酒状況と、介護保険認定情報から把握した認知症(以下、認知症)との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので、ご紹介します(Int J Geriatr Psychiatry. 2023年3月Web先行公開)。

 我が国において、介護保険制度が始まった2000年から2016年の間に、介護保険利用者は約3倍に増加しました。その主な原因は認知症で、約18%(2016年)を占めています。過去の疫学研究から、多量飲酒者並びに過去飲酒者で認知症のリスクが高いことが報告されてきました。一方で、アルコールに対する感受性には人種差が存在しますが、日本人におけるエビデンスは限定的で、また、飲酒習慣は変化する可能性がありますが、1時点のみの飲酒を把握した研究が大半です。そこで、私たちは、多目的コホート研究において、複数回の飲酒量も検討して、日本人における飲酒とその後の認知症リスクとの関連について調べました。

研究方法の概要

 飲酒量は、調査開始時(1995-1999年)のアンケート(アンケート①)とその5年後(2000-2003年)のアンケート(アンケート②)で把握した飲酒項目(お酒を飲む頻度と一日当たり飲むお酒の種類と量)をもとに、1週間当たりの飲酒量(エタノール換算量、g(グラム))を計算しました。まず、アンケート①を用いて、週75g未満の少量飲酒者と比較したその他のグループの認知症リスクを比較しました(解析1)。解析にあたり、対象者を、お酒をほとんど飲まない(非飲酒)、時々飲む(月1~3日)、週75g未満、週75~150g、週150~300g、週300~450g、週450g以上、不明(飲酒頻度、または、飲酒量に未回答な人)という8つのグループに分類しました。次にアンケート①と②を用いて、5年間の飲酒パターンと認知症リスクの関係を検討しました(解析2)。①と②の両方で非飲酒者(繰り返し非飲酒者)および両方で週1回以上の飲酒者(繰り返し規則的飲酒者)の31,004人に限定して解析しました。繰り返し規則的飲酒者については、①と②のアンケートで把握した飲酒量の平均値で飲酒量をグループ分けしました。解析にあたって、性、年齢、Body Mass Index(体重㎏を身長mの2乗で除した値)、喫煙、糖尿病歴、高血圧歴、余暇身体活動、一人暮らしの有無、仕事の有無を統計学的に考慮し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

少量飲酒者に比較して、多量飲酒者と非飲酒者(長期間非飲酒者、過去飲酒者)は、認知症リスクが高い

 2007年から2016年までの要介護認定情報から、4,802人(11%)が認知症と診断されていることを確認しました。アンケート①のみを用いた解析(解析1)の結果、多量飲酒者(週450g以上)と非飲酒者の認知症のリスクは、少量飲酒者(週75g未満)に比較して高いという結果でした(図1)。また、週1回以上飲酒する規則的飲酒者に限定すると、飲酒量が多いほどリスクが高くなる傾向が認められました(図1)。

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図1. 調査開始時点の飲酒と認知症リスク

 

 さらに、5年間の飲酒パターンと認知症リスクの関係を検討した解析(解析2)の結果、繰り返し規則的飲酒者では、平均飲酒量が上がるほどリスクが高くなる傾向がありました(図2)。一方、平均的少量飲酒者(週75g未満)に比較して、繰り返し非飲酒者(長期間非飲酒者、過去飲酒者)でも、高いリスクが認められました(図2)。

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図2. 繰り返し非飲酒者と繰り返し規則的飲酒者の認知症リスク

今回の研究から見えてきたこと

 多量飲酒は、栄養不足、脳の萎縮変化、認知症のリスクとなる脳卒中のような病態や疾患との関連も報告されています。中年期からの多量飲酒を避けることは、さまざまな疾患のみならず、認知症を予防するうえでも、望ましいと考えられます。

 一方、非飲酒者には、アンケート回答前に、うつなどの精神的疾患や心代謝系疾患になったために飲酒をやめた人が含まれていることが推測され、これらの疾患が認知症リスクとも関連しているために、高いリスクを示した可能性があります。また、繰り返しお酒を飲まないと回答した長期間非飲酒者の中には、飲酒により顔が赤くなったり、頭が痛くなったり、といったフラッシング反応を起こす者が含まれている可能性があります。この反応を起こす人たちの中には、アルコールが分解されてできるアセトアルデヒドを酢酸に分解する酵素であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)のうちALDH2が遺伝的に欠損している人も多く、この遺伝的な要因が認知症発症と関連する可能性も報告されています。

 今回の研究で定義した認知症は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症といった認知症の病型に分類することができなかったこと、また調査開始とその5年後以外の期間の飲酒についての継続的な把握はできていないことなどが限界点としてあげられ、今後のさらなる研究が必要です。

(参考) エタノール換算で75gに相当する飲酒量は、日本酒では約3.5合、ビール中瓶(500ml)では約3.5本が目安となります。

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