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多目的コホート研究(JPHC Study)

乳製品摂取と死亡のリスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣や食生活と、がん・脳卒中・心筋梗塞、認知症などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった45~74歳の方々のうち、調査開始時の食事調査票に回答し、がん・脳血管疾患・心疾患の既往のない男女93,310人を、平成30年(2018年)まで追跡した調査結果にもとづいて、乳製品の摂取とその後の死亡との関連を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Eur J Nutr 2023年3月Web先行公開)。

 乳製品には、たんぱく質、脂肪、ミネラル、ビタミンなどが豊富に含まれています。しかし、欧米で行われた前向きコホート研究において、乳製品と死亡リスクとの関連については、結果が一貫していません。また、乳製品の摂取量は国や地域によって異なっており、日本人の摂取量は欧米人と比較して少ないことが知られていますが、日本人を対象として乳製品の摂取と死亡リスクの関連を調べた疫学研究は少なく、よくわかっていません。そこで、私たちは、乳製品の摂取量と死亡リスクとの関連について調べました。

 食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、牛乳、チーズ、醗酵乳製品(ヨーグルト、ヤクルト)から、乳製品の摂取量を推定しました。そして、乳製品の摂取量を人数が均等になるように3つに分け、摂取しないグループと比較したその他のグループにおける全死亡、全がん死亡、循環器疾患(心疾患、脳血管疾患)死亡リスクを調べました。さらに乳製品の種類別にも調べました。解析では、年齢、性別、地域、体格、余暇の身体活動、野菜・果物、エネルギー摂取量、飲酒・喫煙習慣、糖尿病や高血圧の既往歴、閉経有無・ホルモン剤の使用(女性のみ)を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

男性では乳製品摂取量が多いと全死亡・循環器疾患の死亡リスクが低い

 2018年までの追跡期間中(平均19.3年)に、男性14,211人、女性9,547人が死亡しました。そのうち、全がん死亡は男性で5,365人、女性で3,076人、循環器疾患死亡は男性で3,379人、女性で2,582人でした。

 男性では、乳製品の摂取量が多いグループで、全死亡と循環器疾患の死亡リスクが低いという結果でした(図1)。一方で、乳製品の摂取量が一番多いグループと2番目に多いグループの全死亡リスクは、それぞれ0.89倍と0.87倍と同程度に低く、また同様に、循環器死亡では0.78倍と0.77倍と同程度に低い、という結果でした。

 

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図1. 乳製品摂取と死亡リスクとの関連(上図:男性、下図:女性)

 

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図2. 乳製品の種類別と死亡リスクとの関連(上図:男性、下図:女性)

 

今回の結果から分かること 

 本研究では、男性では、乳製品の摂取量が多いグループで、全死亡と循環器疾患の死亡リスクが低いことが明らかになりました。

 乳製品の摂取量が多い欧米の先行研究では、乳製品の摂取と死亡リスクは関連がない、または死亡リスクが高いことが報告されており結果が一貫していません。日本人の乳製品の摂取量は欧米人と比べて少なく、日本人を対象とした先行研究では、乳製品の摂取量が多いと全死亡や循環器疾患の死亡リスクが低下することが報告されており、本研究でも同様の結果でした。

 乳製品由来の活性ペプチドは、血圧の上昇に働く酵素を阻害することによって血圧を下げる働きがあります。また、乳製品はカルシウムやリン、カリウムなどのミネラルも多く含んでおり、これらの栄養素も血圧低下に働きます。これらの栄養素の働きにより、乳製品を摂取するグループの死亡リスクが低くなった可能性が考えられます。その一方で、乳製品は、循環器疾患のリスクを上げる飽和脂肪酸やコレステロールを多く含んでおり、欧米の先行研究では乳製品の摂取量が多いと、循環器疾患のリスクが上がることが報告されています。今回の結果からも、男性において、牛乳とがんの死亡リスクとの間にU字型の関係(摂取が少なすぎても多すぎても死亡リスクが高くなる)がみられました。乳製品を多く摂取することで生じる飽和脂肪酸などによる良くない影響により、カルシウムなどの死亡リスクの低下に働く良い影響が打ち消された可能性が考えられました。

 また、女性では、乳製品の摂取量による死亡リスク低下の関連はみられませんでした。男女別による結果の違いについて、女性では、男性よりも喫煙者や過度の飲酒者が少ないなど、健康的な生活習慣の人が多いことによって、乳製品の摂取と死亡リスクとの関連がみえにくかった可能性があります。

 今回の研究では、乳製品を脂肪分の違い(低脂肪等)による影響を検討できていないことや、追跡期間中の乳製品の摂取量の変化を考慮できていないことが限界としてあげられます。そのため、今回の結果を確認するには今後のさらなる研究が必要です。

 

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