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多目的コホート研究(JPHC Study)

循環器疾患発症と心不全、虚血性心疾患、脳卒中による原死因との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは,いろいろな生活習慣と,がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし,日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に秋田県横手、岩手県二戸、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所管内,平成5年(1993年)に茨城県水戸,新潟県長岡,高知県中央東,長崎県上五島,沖縄県宮古の5保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方のうち,循環器疾患(心筋梗塞や脳卒中)の既往を有さず,20年間の追跡期間中に亡くなられた14,357人を対象に,追跡期間中に起こった循環器疾患発症とその後の心不全、虚血性心疾患、脳卒中による死因との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Circ J. 2023年3月Web先行公開)。

 人口動態統計は,死亡を引き起こした疾病(「原死因」と言います)の頻度を把握するための重要な情報です。近年,人口動態統計において心不全が増えていると指摘されています。心不全は心臓のポンプ機能が落ちることで生じる病気ですが,その原因として心筋梗塞や脳卒中があげられます。一方,人口動態統計で報告されている心不全は,終末期の状態として使われることも多く,その背景がよくわからないことも指摘されてきました。そこで,私たちは20年間に及ぶ前向き研究により循環器疾患の発症とその後の死因との関連を調べました。この研究は,私たちにとって重要な情報である人口動態統計をより正しく理解するためのものと考えています。

 

心不全で死亡した人の24.4%に循環器疾患発症を認めた

 死亡された14,375人の原死因の内訳は,心不全495人,虚血性心疾患818人,脳血管疾患1,437人,他の循環器疾患790人,循環器疾患以外10,835人でした。それぞれの原死因別に,冠動脈疾患(急性心筋梗塞+1時間以内の急性死),脳卒中,循環器疾患(左記のいずれか)の発症の割合を示しました(表)。心不全による死亡のうち,亡くなる前に冠動脈疾患12.9%,脳卒中12.7%,循環器疾患24.4%の発症が認められました。また,原死因が虚血性心疾患の39.9%に冠動脈疾患の発症が,脳血管疾患の70.4%に脳卒中発症があったことが分かりました。

 (クリックで画像拡大)

表 原死因別にみた冠動脈疾患,脳卒中,循環器疾患発症者の割合

1 急性心筋梗塞と1時間以内の急性死を含む.

2 冠動脈疾患または脳卒中発症のいずれか(重複あり).

 

原死因を心不全とする死亡の循環器疾患発症の集団寄与割合

 私たちは,原死因が心不全,虚血性心疾患,脳血管疾患,他の循環器疾患,そして循環器疾患以外で死亡された人において,これら死因に及ぼす循環器疾患発症の影響を評価するために,集団寄与割合を求めました。この集団寄与割合は,性,年齢や高血圧,糖尿病,喫煙,飲酒などの既往歴や生活習慣で調整されたハザード比に基づいて算出しました。集団寄与割合は,心不全など、それぞれの原死因で死亡された人のうち,過去の循環器疾患の発症がどのくらい影響を及ぼしたのか,その大きさの指標になります。

 その結果,心不全死亡に対して冠動脈疾患発症の集団寄与割合は12.0%,脳卒中発症が5.3%,循環器疾患発症全体では17.6%の寄与があることが分かりました。さらに,虚血性心疾患死亡に対して冠動脈疾患発症の集団寄与割合は39.1%,脳血管疾患死亡に対して脳卒中発症は68.8%でした。

(クリックで画像拡大)

図. 原死因別にみた冠動脈疾患,脳卒中,循環器疾患発症の集団寄与割合

 

まとめ 

 この研究において、人口動態統計における心不全死亡に対して,冠動脈疾患や脳卒中発症が影響する大きさがわかりましたが,その寄与は冠動脈疾患と脳卒中を合わせても2割程度であり、心不全死亡に対する循環器疾患発症の寄与は部分的であると推察されます。今後、心不全死亡に至る主な要因が何であるのか更なる研究が必要です。

 今回の研究は、研究開始時に40-69歳であった方、また、対象地域が農村地帯が多いため、他の年齢の集団や都市部へは当てはまらない可能性があることから、結果の解釈に注意が必要です。また、調査開始時に循環器疾患の既往歴があった方々を除外したことから、調査開始前の循環器疾患発症の影響は考慮できていないこと、心不全の原因の一つである心房細動の情報が得られていないことなどは本研究の限界点です。

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