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多目的コホート研究(JPHC Study)

肉類、魚類、および脂肪酸摂取と急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群罹患との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、大阪吹田、沖縄県宮古の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった45~74歳の方々で、食生活や喫煙などのアンケート調査に回答いただき、がんの既往のない男女93,366人を、平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肉類・魚類および脂肪酸の摂取と急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群罹患の罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Environ Health Prev Med. 2023年3月公開)。

 

急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)とは

 AMLとは、骨髄中の未熟な細胞ががん化し、がん化した細胞(白血病細胞)が増殖する血液のがんです。同様に、MDSも骨髄中の造血幹細胞の異常により、正常な血液細胞が作られなくなる病気です。AML、MDSともに治療が難しく、これらの病気の危険要因を知ることは、予防のために重要です。

 AMLやMDSの罹患リスクの要因として、ベンゼン、ダイオキシン、除草剤などがありますが、例えば、食品の中でも加工肉は、多環芳香族炭化水素やN-ニトロソ化合物などの発がん性物質が含まれており、他のがんと同様に罹患リスクの要因となる可能性があります。一方、魚類に含まれる不飽和脂肪酸は抗炎症作用があり、いくつかのがんのリスク低下と関連することが報告されていますが、欧米の複数の研究をまとめたメタアナリシス研究では、魚の摂取量が多いとAMLのリスクが高いことが報告されています。しかし、肉や魚、またそれらに含まれる脂肪酸とAMLやMDSの罹患リスクとの関連については報告が少なく、結果も一貫していません。さらに、先行研究は欧米からの報告が多く、肉類・魚類の摂取量は欧米とアジアで違いがあることなどから、日本人を対象として肉類や魚類の摂取量とAMLやMDSとの関連を調べることは重要です。そこで、私たちは、肉類、魚類、およびこれらに含まれる脂肪酸の摂取量とAML、または、MDSとの関連について調べました。

 食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、肉類、魚類、脂肪酸の摂取量を推定しました。そして、それらの摂取量によって、人数が均等になるように3つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準として、その他のグループのその後のAML、または、MDSの罹患リスクを調べました。解析には、年齢、性別、地域、体格、喫煙歴、飲酒頻度、身体活動量を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。 

 

加工肉の摂取量が多いグループではAML、または、MDSのリスクが高い

 追跡期間中(平均約14.4年)に、67人がAML、49人がMDSに罹患しました。加工肉の摂取量が多いグループにおいてAML、または、MDSのリスクが高くなることが明らかになりました(図1)。そのほかの肉類、魚類および脂肪酸の摂取量とAML、または、MDSのリスクとは関連がみられませんでした(図1,図2)。

 

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図1.肉類・魚類の摂取とAML、または、MDSの罹患リスクとの関連

 

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図2.脂肪酸の摂取とAML、または、MDSの罹患リスクとの関連

 

今回の結果から分かること

 今回の研究では、加工肉の摂取量が多いグループではAML、または、MDSの罹患リスクが高いことが明らかとなりました。赤肉や加工肉の摂取量とAMLやMDSの罹患リスクを調べた先行研究は、欧米で複数行われているものの、一致した見解は得られていませんでした。今回の研究で、赤肉や加工肉がAMLやMDSと関連がみられなかったという欧米の研究と異なり、本研究で加工肉がAML、または、MDSのリスクが高かった理由として、加工肉の摂取量が日本と欧米で異なることや、添加物に含まれる、リスクとなる化学物質への曝露が異なるなど今回測定できていない要因による可能性が考えられます。
 魚類の摂取について、欧米の研究を中心とした複数の研究をまとめたメタアナリシス研究では、魚の摂取量が多いと、AMLの罹患リスクが高いことが報告されています。今回の研究では魚の摂取とは関連がみられませんでしたが、その理由として、加工肉と同様に摂取量や、摂取する魚や魚の産地の環境汚染などの違いによる可能性があげられます。脂肪酸摂取とAML、または、MDSの罹患リスクに関しては、先行研究でも関連がみられておらず、本研究でも同様の結果でした。
 今回の研究の限界点として、肉の焼き加減や調理法、加工肉の添加物を考慮できていない点や、食事についての評価を一時点でしか行っていないため、食生活の変化を考慮できていないことなどがあげられます。

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