トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >排便習慣と認知症との関連
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

排便習慣と認知症との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成12年(2000年)と平成15年(2003年)に、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東の5保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、アンケートに回答した50~79歳の男性約19,000名、女性約23,000名を平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづいて、排便習慣と、介護保険認定情報から把握した認知症(以下、認知症)との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので、ご紹介します(Public Health, 2023年6月Web先行公開)。

 

 腸の機能は、腸内細菌叢が関与する脳腸相関(脳の機能と腸の機能には相互に関連があること)を介して認知機能障害や認知症(特にアルツハイマー病)と関連することが報告されています。腸内細菌叢の変化は、酸化ストレス(酸化反応による細胞の障害)や全身性の炎症をひきおこし、認知症を含む神経変性疾患の病態にかかわることが推測されています。また、腸の機能の簡便な指標である排便習慣(便の頻度と硬さ)は、腸内細菌の働きを介して、認知症と関連することが考えられますが、一般住民において、排便習慣と認知症の関連を調べた先行研究はありません。そこで、私たちは、多目的コホート研究において、排便習慣(便の頻度と硬さ)とその後の認知症リスクとの関連について調べました。

 排便習慣は、調査開始時(2000年から2003年)のアンケートで把握しました。便の頻度は、「便通はどのくらいの頻度でありますか?」という質問に対する回答の(週に3回未満、週に3~4回、週に5~6回、毎日1回、毎日2回以上)から把握しました。便の硬さは、「普段の大便の状態は?」という質問に対する回答の、(下痢便、軟便、普通の便、硬い便、特に硬い便、下痢と便秘を繰り返す)から把握しました。便の頻度の解析では、「毎日1回」、便の硬さの解析では、「普通の便」を基準として、他の回答をしたグループにおける認知症になるリスク(ハザード比)をそれぞれ算出しました。解析では、年齢、体格(BMI)、喫煙、飲酒、既往歴(糖尿病、高血圧、脳卒中)、身体活動、同居家族の有無、医師が処方した内服薬の有無、食物繊維の摂取量を統計学的に考慮し、これらの影響をできるだけ取り除きました。また、腸の症状は女性の訴えが多いことなどから、男女別に解析しました。 

 

男女ともに、便の頻度が少ないグループほど、認知症リスクが高い

 2007年から2016年までの要介護認定情報から、男性で1,889名(9.7%)、女性で2,685名(11.7%)が認知症と診断されていることを確認しました。排便頻度が毎日1回のグループに対して、週3回未満の男性では約1.8倍、女性では約1.3倍認知症のリスクが高く、排便頻度が少ないグループほど認知症リスクが高くなりました(図1)。性別にみると、この傾向は男性でより強くみられました。

(クリックで画像拡大)

図1.便の頻度と認知症

 

男女ともに、便が硬いグループほど、認知症リスクが高い

 便の硬さについて、「普通の便」と回答したグループに対して、「硬い便」と回答した男性では約1.3倍、女性では約1.2倍、「特に硬い便」と回答した男性では約2.2倍、女性では約1.8倍認知症のリスクが高く、便が硬いグループほど認知症リスクが高くなりました(傾向性の検定は「下痢と便秘を繰り返す」グループ以外のグループで行いました)。この傾向は男性でより強くみられました。

(クリックで画像拡大)

図2.便の硬さと認知症

 

今回の研究から見えてきたこと

 男女ともに、排便頻度が低いほど、また便が硬いほど、認知症リスクが高くなりました。排便頻度が低いことと便が硬いことは、便の腸管通過時間の遅延と関連があります。腸管通過時間の遅延は、腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸の減少を引き起こすことが報告されており、短鎖脂肪酸の減少は、酸化ストレスを引き起こし、認知症リスクを高める可能性が考えられます。また、短鎖脂肪酸が減少すると腸管の透過性が亢進し免疫が活性化することで、全身性炎症を介して認知症リスクを高めることも考えられます。男女差に関しては、性別による腸内細菌叢の構成の違いが影響しているかもしれません。

 今回の研究で定義した認知症は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症といった認知症の病型で分類することができなかったこと、便秘薬などを含む内服薬の具体的な種類の把握ができていないこと、またアンケート時点以降の排便習慣の変化について把握ができていないことなどが限界点としてあげられ、メカニズムを含めた今後のさらなる研究が必要です。

上に戻る