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多目的コホート研究(JPHC Study)

5年間の2型糖尿病罹患リスクの予測モデルの開発および検証について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・糖尿病などの関係を明らかにし、その結果を日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。1998–1999年に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、2000–2001年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった46~75歳のうち、1998~2000年度に実施された糖尿病調査にご協力いただいた糖尿病の既往のない10,986人(男性3,609人、女性7,377人)を対象として、5年間の2型糖尿病罹患の予測モデルを開発し、別の集団で外部検証しました。本研究結果を学術雑誌に発表しましたのでご紹介します(J Epidemiol. 2023年4月公開)。

 

JPHC Diabetes Studyにおける予測モデルの開発

 2型糖尿病罹患リスクの予測モデルは、様々な情報を用いて個人の2型糖尿病の罹患確率を推定するためのツールです。本研究では、非侵襲性の予測因子(採血などの痛みや苦痛を伴う検査を要さずに取得できる情報、例えば性別や糖尿病の家族歴)と侵襲性の予測因子(HbA1c値や空腹時血糖値の検査結果の情報)を用いて、5年間の糖尿病罹患リスクを予測するモデルを作成しました。

 非侵襲性リスクモデルでは性別、BMI(body mass index:体格指数)、糖尿病の家族歴、拡張期血圧が予測因子として選択されました。作成したモデルの予測性能として、2型糖尿病を罹患する人としない人を見分けることのできる程度(判別能)を表すROC曲線下面積(AUC: Area Under the Receiver Operating Characteristic Curve、1に近づくほど2型糖尿病への罹患を正確に予測できることを示す)を計算しました。

 非侵襲性リスクモデル(model 1)では0.643であったのに対し、非侵襲性の予測因子にHbA1c値を追加したモデル(model 2)では0.786、HbA1c値と空腹時血糖値を加えたモデル(model 3)では0.845でした(図1)。さらに、各モデルで計算された予測確率が、観測された2型糖尿病罹患リスクとどの程度一致するのか(較正能と呼びます)を較正プロットにより評価したところ、全てのモデルで比較的良好な結果が得られました(図2)。

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図1. JPHC Diabetes StudyのROC曲線(横軸は1-特異度、縦軸は感度)

 

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図2. JPHC Diabetes Studyの較正プロット(横軸は予測確率、縦軸は観測した罹患割合)

 

開発された予測モデルの外部検証

 次に、職域多施設研究(J-ECOHスタディ)に参加し2013年に健康診断を受診した46歳~75歳の男女11,345人のデータを用いて、JPHC Diabetes Studyで開発したモデルの外部検証を行いました。J-ECOHスタディにおいて、model 1のROC曲線下面積は0.692であり、model 2は0.831で、model 3では0.874でした(図3)。予測確率が0.2未満の範囲においては、model 2は予測確率と糖尿病リスクが概ね一致し、較正能が十分と判断されました。一方、model 1やmodel 3は実際に観測されたリスクより高く予測する傾向にありました(図4)。

 

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図3. J-ECOHスタディのROC曲線(横軸は1-特異度、縦軸は感度)

 

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図4. J-ECOHスタディの較正プロット(横軸は予測確率、縦軸は観測した罹患割合)

 

今回の研究から見えてきたこと

 本研究では、2型糖尿病のリスクを予測するために3つのモデルを開発しました。すべてのモデルは良好な判別力を示し、非侵襲性の予測因子にHbA1c値を追加したモデル(model 2)は較正能も比較的良好でした。これまで、日本人を対象として、糖尿病罹患予測モデルが複数開発されていますが、本研究のように日本国内の複数の地域住民を対象として開発されたものはありませんでした。また、予測モデルの開発に用いたJPHC Diabetes Studyは1990年代に開始された研究ですが、開発されたモデルの検証は2013年から開始されたJ-ECOHスタディで検証されました。これらのことから、地域や時期が異なっていても、本研究結果の適用可能性は比較的高いと考えられます。
このモデルを利用して、2型糖尿病の罹患リスクが高いと推定された人は、糖尿病のために適度な食事や運動の習慣を心がけたり、早期発見のために定期的に健康診断を受診することなどの対策を行うことが可能となりますので、広く活用されることが期待されます。
 今後、本研究で開発した2型糖尿病のリスク予測モデルにより、ご自身のリスクを計算するツールを公開する予定です。

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