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多目的コホート研究(JPHC Study)

魚介類、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と腎がん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった45~74歳の方々のうち、アンケート調査に回答いただき、がんの既往がなかった男女84,063人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と腎がんの罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2023年08月Web先行公開)。

 

 魚・n-3系多価不飽和脂肪酸摂取は抗炎症作用があり、いくつかの癌に対する予防的効果を持つ可能性が示されています。これまで、魚介類摂取は肝臓、膵臓、大腸などのがんのリスク低下と関連することが報告されていますが、腎がんとの関連については明らかになっていませんでした。また、欧米人と比較して魚介類を多く摂取する日本人における魚介類摂取と腎がん罹患との関連を評価した報告もありません。そこで日本人の魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と腎がん罹患との関連について調べました。

 138食品を含む食物摂取頻度調査票(FFQ)から算出した、魚介類(塩たら、干物、マグロ缶詰、さけ、かつお、たら、たい、あじ、さんま、しらす、たらこ、うなぎ、いか、たこ、えび、あさり、たにし、ちくわ、かまぼこ)と、n-3系多価不飽和脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取量を、人数が均等になるように4つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループと比較して、その他のグループの腎がんの罹患リスクが何倍になるかを調べました。解析では、性別、年齢、地域、体格BMI、喫煙歴、飲酒量、身体活動量、糖尿病の既往、高血圧の既往、その他の疾患の既往歴、検診受診、肉類・野菜類・果実類摂取量を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

 

n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いグループでは腎がんの罹患リスクが高かった

平均15.1年の追跡期間中に、262人(男性179人、女性83人)が腎がんと診断されました。解析の結果、魚介類全体では腎がんと関連はみられませんでしたが、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取が多いグループで腎がんの罹患リスクが統計学的有意に高いという結果でした(図1)。また、発見動機や進展度ごとに調べたところ、発見動機が他疾患の観察中であること、進行期で診断された腎がんで統計学的有意にリスクが高くなりました(図2)。


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図1. 魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と腎がん罹患リスクとの関連

 

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図2. n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と腎がん発見動機と進展度での関連

 

今回の結果から分かること

 今回の研究から、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いと腎がんの罹患リスクが高いことが明らかになりました。先行研究では魚類や魚に含まれる脂肪酸は腎がんのリスク低下と関連することが報告され、また、欧州の大規模なコホート研究やいくつかの研究をまとめたメタアナリシス研究では、魚の摂取量と腎がんの罹患リスクとの関連はないことが報告されています。先行研究との結果が異なった理由について、日本人は魚の摂取量が欧州に比べて多いという摂取量の差が考えられます。メカニズムとしては、脂肪酸を過剰に摂取することで、脂質が酸化されることにより発がんに影響する可能性が考えられました。また、腎がんの罹患率はアジアより欧米諸国で高いことから、欧米人と日本人で、喫煙や体格などの特性が異なることによることの影響が考えられ、それらの影響は魚や脂肪酸の影響よりも大きいことも考えられました。

 今回のn-3系多価不飽和脂肪酸摂取量が多いグループで腎がんのリスクが高かった結果は、腎がんは自覚症状が乏しく、他の疾患で受けたエコー検査や検診で発見されることが多いことから、過剰診断の影響をうけて得られた可能性も考えられたので、発見動機別にリスクを調べました。その結果、他科疾患観察中に発見された腎がんで高いリスクが見られ、病院を受診する頻度や 毎年の健康診断により、がん診断を受けたため見かけ上リスクが高くなっている可能性(検診バイアス)が考えられました。しかし、健診受診の有無と魚介類摂取量に差が見られなかったことから、理由は明確ではなく、今回の解析で調整できていない潜在的なほかの要因も考えられました。また、本研究では進行がんのリスクが高かったことから、n-3系多価不飽和脂肪酸は腎がんの発がんより進行に影響する可能性が考えらえました。

 今回の研究では、n-3系多価不飽和脂肪酸のサプリメントの摂取状況を考慮していないこと、魚の摂取量を一時点でしか評価できていないことなどが限界点として挙げられます。魚介類、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と腎がん罹患については、過去の疫学研究が少ないため、今回の結果を確認するためには今後さらなる研究が必要です。

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