トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >体格および体重変化と認知症との関連

現在までの成果

体格および体重変化と認知症との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の3保健所管内に、また平成5年(1993年)に茨城県水戸と高知県中央東の2保健所管内(5つの保健所の呼称は2019年時点)にお住まいで、年齢が40~59歳であった方々のうち、研究開始時のアンケートと10年後のアンケートの両方に回答してくださった約3万7千人の男女を対象としました。2つのアンケートから求めた、体格指数(Body Mass Index、以下、BMI)および体重変化と、アンケート回答後の平成18年(2006年)から平成28年(2016年)までの介護保険要介護認定情報から把握した要介護認知症(以下、認知症)との関連を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので、ご紹介します(Alzheimer's Dement. 2023年11月公開)。

 これまでの研究で、肥満と認知症の関連は年齢によって異なることが指摘されています。中年期の肥満は認知症のリスク因子であるとされる一方、高齢期の肥満は認知症のリスクとは関連せず、むしろ中年期から高齢期にかけて体重が減った人の方が認知症を発症しやすいとする研究が多く見られます。これらの知見の多くは肥満者が多い欧米からの報告に基づいており、欧米人に比べて体格が小さいアジア人を対象とした研究や、中年期においてやせていることの認知症リスクに関する研究は不足していました。また、体重と認知症の関連について男女差があるかについては一致した見解は得られていません。そこで私たちは、多目的コホート研究において、中年期と高齢期初期それぞれの時期におけるBMI、および中年期から高齢期初期へかけての体重の変化に着目し、その後の認知症リスクとの関連を男女別に検討しました。

 

研究方法の概要

 BMIと認知症の関連を調べる際には、研究開始時および10年後のアンケートへの回答から、それぞれの時点におけるBMI[体重(kg)÷身長(m) ÷身長(m)]を、①やせ(14.0~18.9 kg/m2)、②やせ気味(19.0~22.9 kg/m2)、③標準体重(23.0~24.9 kg/m2)、④過体重(25.0~26.9 kg/m2)、⑤肥満(27.0~39.9 kg/m2)の5つのグループに分けました。体重変化と認知症の関連を調べる際には、10年間の体重の変化率(%)[(10年後の体重(kg)-研究開始時の体重(kg))/研究開始時の体重(kg)×100]を男女別に4分位してから、①体重減少(第1分位)(男性 -3.44%以下、女性 -3.70%以下)、②体重変化なし(第2分位と第3分位)(男性 -3.44%より大かつ4.00%以下、女性 -3.70%より大かつ4.26%以下)、③体重増加(第4分位)(男性 4.00%より大、女性 4.26%より大)の3つのグループに分けました。解析では、地域、年齢、喫煙状況、飲酒状況、降圧薬の内服、糖尿病の既往、脳卒中の既往、虚血性心疾患の既往、消化管潰瘍の既往について統計学的に調整し(体重変化の解析では研究開始時のBMIも調整に加えました)、これらによる影響をできるだけ取り除きました。

 

中年期と高齢期初期とではBMIと認知症のリスクとの関連が異なっていた

 平成18年(2006年)から平成28年(2016年)までに3,019人(8.1%)が認知症と診断されていることを確認しました。
 図1の上半分が、研究開始時のBMIと認知症リスクとの関連について調べた結果です。標準体重のグループと比較して、肥満のグループ(男女両方)に加え、やせ気味(男性)、やせ(女性)のグループでも認知症リスクが高いことがわかりました。さらに、図1の下半分に示しているように、研究開始から10年経過した時点でのBMIについては、男女ともやせのグループでのリスクが肥満のグループでのリスクよりも高い結果となりました。

図1. 研究開始時および10年後調査時のBMIと認知症リスク

 

中年期からの体重増加と体重減少のいずれも認知症のリスクと関連するが、体重減少がより強く関連していた

 図2が、研究開始から10年間の体重変化と認知症リスクとの関連について調べた結果です。体重変化なしのグループと比較して、男女とも体重増加、体重減少どちらのグループにおいても認知症リスクが高くなっていましたが、体重減少のグループでのリスクは体重増加のグループでのリスクを上回っていました。

図2. 研究開始時から10年間の体重変化と認知症リスク

 

今回の研究から見えてきたこと 

 中年期の肥満とやせていることの両方が認知症リスクと関連すること、そして、中年期以後は、やせていることと認知症リスクとの関連がより強くなること、さらに、このことに矛盾しない結果として、中年期以後は体重増加よりも体重減少の方が認知症リスクとの関連が強いことを、日本人を対象とした研究で確認できました。また、これらの関連には男女差はみられませんでした。
 肥満の人では、認知症リスクを高める血管健康度の低下やインスリン抵抗性が生じやすく、また内蔵脂肪の蓄積と関連するホルモンや炎症性サイトカインも認知症リスクに影響するとされています。
 一方、中年期以後の体重減少と認知症リスクとの関連についてはメカニズムが未解明です。認知症では、認知機能低下の症状が現れるより前に、脳内の病理学的変化が起こるとされています。その結果、食欲をつかさどる脳の機能変化、また、嗅覚の変化や意欲の低下によって食事の摂取が減り、体重が減少する可能性が指摘されています。従って、体重減少は認知症の前段階の症状であり、体重減少そのものが認知症を引き起こすわけではないと考えられます。
 今回の結果は、中年期以後の適正な体重維持が認知症予防につながること、特に、中年期の体重減少に対して注意を払う必要があることを示しています。なお、今回の研究では、中年期より前の時期の体重が認知症リスクに関連するかについては調べていないため、さらなる研究が必要です。

上に戻る