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現在までの成果

女性生殖関連要因と膀胱がん・尿路上皮がん罹患の関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5-6年(1993-94年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10の保健所(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、アンケート調査に回答していただいた45~74歳の膀胱がん・上部尿路上皮がん(尿管がん・腎盂がん)・尿路上皮がん(膀胱がん・上部尿路上皮がん)がん既往がない女性55,882人を、平成27年(2015年)まで追跡した調査結果にもとづいて、女性生殖関連要因と膀胱がん・上部尿路上皮がん・尿路上皮がんの罹患リスクとの関連を調べた結果を疫学専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2023年11月公開)。

 これまでの研究から、喫煙や有機溶媒が膀胱がん・上部尿路上皮がん罹患のリスク要因であることが明らかになっています。また、膀胱がん・上部尿路上皮がんの罹患率には男女差があり、男性では女性に比べて3~6倍高いのは、喫煙率や職業の違いだけでは説明がつかず、動物実験の結果などから、女性ホルモンであるエストロゲンの予防効果も一つの要因ではないかと考えられています。しかし、出産や閉経など、女性の生殖関連要因と膀胱がんとの関連についてのこれまでの報告では、一貫した結果が得られていませんでした。また、その多くが欧米諸国から報告されており、日本人を対象とした女性関連要因と膀胱がん・上部尿路上皮がんとの関連について、大規模な疫学研究からの報告はありませんでした。そこで、私たちは日本人女性を対象として、女性の生殖関連要因と膀胱がん・上部尿路上皮がん罹患・および尿路上皮がん罹患リスクの関連について調べました。

 

研究方法の概要

 研究開始時・5年後調査・10年後調査の自記式アンケート調査で把握した女性生殖関連要因(月経、出産、婦人科関連手術の既往に関する情報を用いて、婦人科関連がんの既往歴、初潮年齢、月経周期の規則性、出産経験の有無、出産人数、初産年齢、授乳経験、閉経年齢、閉経の種類(自然/手術等)、ホルモン剤使用の有無)と、その後の膀胱がん・上部尿路上皮がん罹患との関連について解析しました。解析では、年齢、地域、喫煙状況、BMI(Body Mass Index)、婦人科関連がんの手術歴と、上記の女性生殖関連要因について統計学的な調整を行い、これらによる結果への影響を出来る限り取り除きました。

 

閉経年齢が若い女性は、尿路上皮がん罹患または膀胱がん罹患のリスクが上昇していた 

 平均20.2年の追跡期間中に、145人に膀胱がん罹患、49人に上部尿路上皮がん罹患、計194人に尿路上皮がん罹患が確認されました。
 閉経年齢が44歳以下だった女性は、49-51歳で閉経した女性と比較して尿路上皮がん罹患および膀胱がん罹患のリスクが統計学的有意に高くなっていました(図1)。

 

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図1. 自然閉経および手術などによる閉経をした女性の閉経年齢と尿路上皮がん罹患(左)、膀胱がん罹患(右)との関連

 

 さらに、手術などで閉経した女性の影響を除外するために、自然閉経した女性に限定して解析したところ、閉経年齢が44歳以下の女性は49-51歳で閉経した女性と比較して膀胱がん罹患のリスクが統計学的有意に高くなっていました(図2)。その他の女性関連因子と尿路上皮がん・膀胱がん・上部尿路上皮がん罹患との関連は認められませんでした。

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図2. 自然閉経した女性の閉経年齢尿路上皮がん罹患(左)、膀胱がん罹患(右)との関連

 

今回の研究から見えてきたこと 

 本研究の結果から、閉経年齢が若い女性で尿路上皮がんと膀胱がんの罹患リスクが高くなることが示されました。手術などによる閉経について、原因疾患や治療内容の詳細はアンケート調査からは把握できませんでした。そこで、自然閉経した女性のみでの解析も追加して行いましたが、その解析でも閉経年齢が若い女性で膀胱がんの罹患リスクが高くなることが示されました。これらの結果は、欧米諸国からの報告とも一致しています。閉経年齢が若くなることで女性ホルモンの分泌量が減少し、エストロゲン受容体を介した尿路上皮がん発生の抑制効果が減弱すること、閉経によって尿路感染症リスクが上昇し尿路内が長期間の慢性炎症に晒されることなどがメカニズムとして考えられます。
 本研究での限界は、女性生殖関連要因がすべて自己申告回答であり正しく分類できていない可能性があること、欧米人と比較して日本人の尿路上皮がんの罹患数が少なく統計学的な検出力が十分ではなかった可能性が挙げられます。
 より精度の高い結果を提供するためにも、今後のさらなる研究結果の蓄積が必要です。

 

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