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多目的コホート研究(JPHC Study)

仕事および余暇中の中高強度身体活動と死因別死亡の量反応関係

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、東京都葛飾、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々で、2000年と2003年に行った10年後調査にご協力いただいた、がんや循環器疾患の既往がなく、身体機能に制限のない50~79才の男女81,601人を、平成30年(2018年)まで追跡した調査結果にもとづいて、仕事および余暇中の身体活動(運動量)と死因別死亡との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Med Sci Sports Exerc. 2023年10月26日Web先行公開)。

 

 これまでの研究により、身体活動は肥満や心血管疾患の予防、一部のがんの予防、死亡リスクの低下など、さまざまな健康利益をもたらすことが報告されています。このため、世界保健機関(WHO)は、週に150分~300分の中強度の身体活動(歩行や軽く息がはずむ程度の軽い運動)、あるいは、同等のエネルギー消費量になる高強度の身体活動(ジョギング、サイクリング、サッカーなど、呼吸が乱れる程度のもの)の実施を推奨しています。また、厚生労働省は日本人の身体活動量が比較的多いことを考慮して毎日60分以上の中高強度身体活動を実施することを推奨しています。

 一方、WHOのガイドライン未満の身体活動が健康上の利益に寄与しないのか、またWHOや日本のガイドラインを超える量の身体活動が行われた場合の効果についての研究は限られています。さらに、身体活動は運動やスポーツのように余暇場面で行われる場合と、仕事に関連する場面(通勤、家事を含める)で行われる場合とがありますが、それぞれの場面での活動が健康へどう影響するかを調べた研究も限られています。そこで我々は、中高強度の身体活動量(METs・時/日)と総死亡率および死因別(がん、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患)の死亡率との量反応関係を、身体活動が行われる場面(仕事関連または余暇)別に調べました。

 

研究方法の概要

 中高強度身体活動は、活動強度を表すMET(Metabolic equivalent、代謝当量)値に活動時間をかけたMETs・時/日で求め、中高強度身体活動を全く実施していないグループと、中高強度身体活動の量で10グループの、合わせて11グループに分類し、中高強度身体活動を全く実施していないグループと比較して、それ以外のグループの死亡率(総死亡、がん・心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患の各死亡)を比較しました。解析では、年齢、性別、地域、体格(Body Mass Index)、喫煙状況、飲酒状況、糖尿病既往歴、高血圧既往歴について統計学的に調整し、これらが結果に与える影響をできる限り取り除きました。 

 

ガイドラインに満たない身体活動でも死亡リスクが低減していた 

 解析の結果、WHOガイドラインで推奨される量(1.5-2.9METs・時/日、ウォーキングで1日30~60分程度)の身体活動を実施しているグループで18%ほど総死亡率が低減していました。特筆すべきは、ガイドラインが推奨する量未満のグループ(0.01-1.49 METs・時/日)であっても、全く実施しないグループと比較して、総死亡で約11%、心疾患死亡率で約14%、死亡率が低減していました(図1)。
 また、本研究では、日本の身体活動ガイドラインが推奨する、毎日60分以上の中高強度身体活動(4.5 METs・時/日)よりも多くの量の身体活動を実施した場合、よりリスクが低減することが明らかになりました。中高強度身体活動の量により分けられた11グループのうち、死因別死亡率が最も低くなるグループ、およびその死亡低減率は、総死亡率で35%(9-11.9METs・時/日)、心疾患死亡率で55%(9-11.9METs・時/日)、がん死亡率で22%(24-35.9METs・時/日)、脳卒中死亡率で44%(9-11.9METs・時/日)、呼吸器疾患死亡率で38%(9-11.9METs・時/日)でした(図なし)。

 

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図1. 身体活動と死因別死亡の関連

 

仕事関連で体を動かさない場合でも余暇時間での中高強度身体活動が死亡リスクの低減と関連していた

 次に、中高強度身体活動を「仕事関連で行う場合」と「余暇時間に行う場合」とに分け、死亡との関連を調べました。仕事関連の身体活動量で、対象者を小、中、多の3等分(3分位)に分けた上で、さらに各グループのなかで余暇時間の身体活動量でも対象者を3分位に分け、仕事関連の身体活動量別に、余暇活動が最も少ないグループとそのほかのグループの死亡率を比較しました。
 その結果、仕事関連の身体活動が最も少ない、または、中程度のグループでは、余暇時間の身体活動が多いほど総死亡や各死因別死亡率が低い傾向がみられました(図2)。一方、仕事関連の身体活動が最も多い3グループでは、総死亡や心疾患死亡では同様の関連が見られましたが、それ以外の死因(がん・脳血管・呼吸器疾患)では、関連は認められませんでした(図2)。

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図2. 仕事関連の中高強度身体活動量別の、余暇時間中の身体活動と死因別死亡の関連

 

今回の研究から見えてきたこと 

 本研究では、身体活動量がWHOの提唱する基準に満たない場合でも、総死亡率および心疾患死亡率が低減していました。このことにより、基準値を満たさないような少ない量であっても、身体活動に取り組むことで、健康に良い効果が得られることが示唆されました。
 さらに、身体活動を仕事関連の身体活動と余暇に行う身体活動に分けてみると、仕事関連の身体活動が少ない場合でも、余暇の身体活動が多い場合は総死亡率や死因別死亡率は低減する傾向にありました。このことから、デスクワーカーなど仕事中の身体活動が少ない人ほど、余暇時間に身体活動することが、健康上重要であると考えられます。また、仕事関連で体をよく動かす方でも、余暇時間に運動することで死亡リスクが低くなる可能性も示唆される結果でした。仕事で体をよく使う方でも、可能な範囲で余暇中に実施できる身体活動の習慣を取り入れることが重要かもしれません。
 本研究では、統計学的にさまざまな要因の影響を除外するように考慮しましたが、追跡期間中には身体活動の変化があったことや、所得水準などの考慮しきれなかった健康に影響を与える他の要因が結果に影響した可能性があることに留意が必要です。また、身体活動の評価は自己申告(自記式質問紙)で行なっています。したがって、健康に対する利益が得られる最低限の身体活動量および身体活動が過剰となる身体活動量などの具体的な数値については、今後、より詳細な評価手法を用いた研究で確認が必要です。

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