多目的コホート研究(JPHC Study)
肥満指数の変化と死亡リスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、研究開始から5年ごとに行った3回のアンケート調査票に回答した約6.5万人を平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肥満指数(Body Mass Index; BMI)変化と死亡リスクとの関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(Int J Epidemiol. 2024年2月公開)。
肥満は、慢性疾患および死亡のリスク上昇と関連していることが知られていますが、アジア諸国では、体重減少が死亡リスク上昇と関連していることが報告されています。しかし、長期にわたる体重減少が超過死亡リスクを説明するのかは明らかになっていませんでした。そこで、本研究では、成人期(20歳以後)のBMIの変化により特定されたグループと死亡リスクとの関連について調べました。
研究方法の概要
BMI変化と死亡リスクの関連を調べるために、まず、各調査時点と20歳時の体重についてのアンケートへの回答からBMIを算出しました(BMI(kg/m2)=[体重(kg)÷身長(m) ÷身長(m)])。BMI変化のグループを分ける際には、調査開始時、調査開始から5年後のアンケート、10年後のアンケートと、アンケートの回答から得られた20歳時の体重を使用しました。BMIの変化によってグループ分けを行う際には、普通体重を20-25kgと定義し、また、これまでの研究報告、および、WHOの分類の名称を踏襲し、①継続的なやせ(グループ1)、②普通体重の範囲での体重増加(グループ2)、③普通体重の範囲での体重減少(グループ3)、④普通体重から過体重(グループ4)、⑤過体重から普通体重(グループ5)、⑥普通体重から肥満(グループ6)に分けました(図1)。解析では、性別、喫煙状況、飲酒状況、身体活動量、糖尿病の既往歴、高血圧の既往歴の影響を統計学的に調整し、これらが結果に与える影響を出来る限り取り除きました。
体重減少と継続したやせの変化グループで死亡が増加
最も多くの人が分類されたグループは、時間とともにBMIは増加したものの普通体重範囲にとどまるグループ2で、34.6%でした。BMI低下グループ(グループ3および5)は合計で15.6%のみでした(図1)。
図1. 6つのBMI変化グループ
グループ2 (普通体重範囲内での体重増加)を基準とした場合、グループ4(普通から過体重への体重増加)を除くすべてのグループの全死因死亡リスクが統計学的有意に高いことがわかりました。この結果から、体重が減少したグループ3,、グループ5、および、継続的なやせ型のグループ1においても、高い死亡リスクと関連しており、体重が過剰に増えることだけが高い死亡リスクと関連しているわけではないということがわかりました(図2)。死因別にみてもおおよそ同様の結果でしたが、特に呼吸器疾患死亡は継続的なやせ型のグループ1でリスクが高い結果でした。
図2. 体重変化と死亡リスク
まとめ
今回の研究では、過度な体重増加だけではなく、継続したやせ、および、体重減少も死亡リスクと関連しているという結果が得られました。オーストラリアで行われた先行研究では、低体重グループも体重減少グループもリスクの低下を示しませんでしたが、アジアで行われた先行研究の結果とは一致しており、体重変化による死亡リスクへの影響は、欧米人とアジア人では異なるようだとわかりました。アジア人集団において中年期以降の体重減少はよくみられることであり、死亡リスクが高いことと関連していると考えられます。
今回の研究では、より良い健康モニタリングのために、単一の時点でのBMIだけでなく、過去のBMIも考慮することの重要性が示されました。一方で、グループ3、5のような体重減少グループは、糖尿病および他の既往症の有病率が高く、これらの健康状態のために、食事制限や運動を行うことで意図的に体重を減らした場合と、これらの病気等で意図せず体重が減った場合の区別ができていません。因果関係(体重が減ったから死亡リスクが上がったのか、死亡リスクを高くする疾病となったために体重が減ったのか)については、さらに検討が必要です。