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多目的コホート研究(JPHC Study)

年齢層別による肥満度と脳梗塞、脳内出血及び脳卒中発症リスクとの関係

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2019年現在)管内に在住の40から69歳の男女約9万人の方々を平成23年(2011年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肥満度(Body Mass Index:BMI)と脳卒中の発症リスク、またその病型である脳梗塞、脳内出血の発症リスクとの関連を詳細に検討し、専門誌(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2024年2月公開)に発表しましたので紹介します。

 脳卒中は脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血の3つの病型に分けられますが、脳梗塞と脳内出血が脳卒中発症数の大部分を占めています。肥満度が高いほど脳梗塞の発症リスクが高くなる関連は多くの研究で認められていますが、肥満度と脳内出血発症リスクとの関連性は研究間で必ずしも一致していません。その可能性として、研究対象者の年齢や、追跡期間中の体重(BMI)の変化が結果に影響する可能性が想定されました。そこで、本研究では、肥満度が測定された年齢を40-59歳、60歳以上に分け、さらに、調査開始時、5年後、10年後の情報を用いてBMIと脳内出血、さらに脳梗塞および脳卒中全体との関連を調べました。

 

肥満度の計算と解析方法

 肥満度の指標には体重(kg)÷身長(m)2であるBMI(単位:kg/m²、以下略)を用いました。BMIはWHOの分類に準じ、18.5未満、18.5以上21未満、21以上23未満、23以上25未満、25以上27.5未満、27.5以上30未満、30以上の7つのグループに分け、各グループの脳梗塞、脳内出血、脳卒中の各発症率を計算しました。また、BMIが23以上25未満のグループを基準として、その他のグループの病型別の発症リスクとの関連を調べました。解析時には、年齢、性別、喫煙状況、飲酒状況、運動習慣、高血圧・高脂血症・糖尿病の既往歴を統計学的に調整し、これらが結果に与える影響を出来る限り取り除きました。また、生活習慣や既往歴の情報は、追跡期間中にその値が変化する(時間依存性共変量)ため、そのことを統計学的に考慮した解析を行いました。

 

40-59歳、60歳以上いずれの年齢層においても、脳梗塞発症リスクは肥満度が高いほど上昇したが、
脳内出血発症リスクは、肥満度が高い場合も低い場合も上昇がある

 約19年の追跡期間中、88,754人の対象者から4,690人の脳卒中発症(うち2,781 人が脳梗塞、1,358人が脳内出血)が確認されました。60歳以上の集団の脳梗塞の発症率(青●)は、BMIが30以上のグループで最も高く(4.37)、BMIが18.5未満のグループで最も低かった(2.42)ものの、その値は40-59歳の集団で脳梗塞の発症率(白〇)が最も高かったBMIが30以上のグループ(1.73)より高率でした(図1)。同様に、脳内出血においても、BMIのグループによらず年齢層が60歳以上の集団の発症率(緑■)が40-59歳の集団の発症率(白□)より高い傾向が認められました。

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図 1. 年齢層別のBMI階級と脳梗塞、脳内出血の発症率(1,000人年あたり)

 


 脳梗塞発症リスクについては、40-59歳の集団および60歳以上の集団の、いずれにおいても、BMIが高いグループほど脳梗塞発症リスクが高いという正の直線的な関連が認められました(図2)。

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図 2. 年齢層別のBMI階級と脳梗塞発症率との関連

 

 一方、脳内出血の発症リスクについては脳梗塞とはやや異なり、40-59歳の集団および60歳以上の集団いずれにおいても、肥満度の高い集団だけでなく、やせ(BMIが18.5未満)においてもリスクの上昇傾向をみとめ、BMIと発症リスクの関連がU字型の傾向を示すことが観察されました(図3)。


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図 3. 年齢層別のBMI階級と脳内出血発症率との関連

 

この研究について 

 肥満と脳梗塞や脳内出血発症の間には、高血圧など、肥満と発症の中間にある因子(媒介因子)の影響を調整した後も、統計学的に有意な関連が認められましたが、今回の解析で考慮できていない炎症、血液凝固系などの要因や未知の因子が関係している可能性があります。また、やせと脳内出血発症リスクが関連したことの理由は十分に分かっていませんが、低栄養状態が血管の脆弱性、すなわち出血しやすさと関連した可能性が考えられます。

 

まとめ  

 肥満度(BMI)が高いことは、脳梗塞、脳内出血の発症リスク上昇と関連があり、またBMIが測定された年齢が40-59歳、60歳以上のいずれの場合も同様であることが確認されました。一方、やせは脳内出血の発症リスク上昇と関連する可能性が示唆されました。体重を健康的な範囲に保つことは脳卒中予防において重要であると言えます。
 本研究は、追跡期間中のBMIの変化を考慮し、さらに年齢によって対象者を分けることで詳細な分析を行っており、これはこれまでの研究にない優れた点です。本研究ではBMIの算出に、自己申告の体重と身長を用いています。これらは概ね正確であることが過去の研究により示されていますが、BMIが大きい者は体重を過小申告しやすい可能性があることも報告されています。そのため、機器により測定される身長と体重を用いた場合、BMI高値と脳卒中の関連性がさらに強い可能性もあり、さらなる研究が必要です。

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