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多目的コホート研究(JPHC Study)

抗コレステロール薬の長期服用とがん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、研究開始時、5年後調査、10年後調査のアンケート全てにご回答下さり、10年後調査の時点でがん既往がなく追跡可能であった男女約7万6千人の方々を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、抗コレステロール薬の長期服用とがん罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Sci Rep. 2024年2月公開)。

 様々な薬剤において、期待される効果とは別に、がんの発生を予防あるいは促進する可能性が示唆されており、抗コレステロール薬についてもがんとの関連が議論されています。抗コレステロール薬として最も一般的に使われているスタチンは、腫瘍の増殖阻害や特定の種類のがん細胞におけるアポトーシスの誘導の効果があるという報告がありますが、これまでに得られている研究結果では、関連性が一致していません。そのため本研究では、抗コレステロール薬の長期服用と、その後のがん罹患リスクとの関連を検討しました。

 

研究方法の概要

 調査開始時、5年後調査、10年後調査におけるアンケートへの回答から得られた抗コレステロール薬の服用状況をもとに、がん既往歴のない人を、内服なし、5年未満服用、5年以上服用の3つのグループに分け、2013年末まで追跡調査を行いました。そして、服用なしと比べたその他のグループにおけるその後のがん罹患との関連を、全部位、食道、胃、大腸、肝臓、胆道、膵臓、肺、乳腺、子宮、前立腺、腎臓のそれぞれのがんについて調べました。解析では、年齢、性別、地域、喫煙状況、飲酒状況、体格(BMI)、コーヒー摂取、身体活動、職業、がん家族歴・糖尿病・高血圧の既往の有無など、がんと関連する要因を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。なお、肝がんについての解析では慢性肝炎または肝硬変の既往を、乳がんと子宮がんの解析では閉経状況、ホルモン剤の使用の有無についても統計学的に調整しました。

 

抗コレステロール薬の長期服用は、肝がん罹患リスクの低下と膵がん罹患リスクの上昇に関連する

 平均13.1年間の追跡期間中に、8,775人(男性5,387人、女性3,388人)が、何らかのがんと診断されました。
全がんおよびその他の部位のがんについては、がん罹患のリスクと抗コレステロール薬の長期使用との間に統計学的有意な関連は観察されませんでした。(図1)。がん部位別の解析の結果、抗コレステロール薬を5年以上服用したグループで、肝がんの罹患リスクが統計学的有意に低下しており(ハザード比:0.26、95%信頼区間:0.11-0.64)、また膵がんの罹患リスクが統計学的有意に上昇(ハザード比:1.59、95%信頼区間:1.03-2.47)していました。

(クリックして拡大)

図1. 抗コレステロール薬服用とがん罹患リスクとの関連

 

今回の結果から分かること 

 今回の研究で、抗コレステロール薬の長期服用が、肝がんの罹患リスクの低下および膵がんの罹患リスクの上昇と関連する可能性が示唆されました。抗コレステロール薬の長期服用と肝がん罹患の関連に関しては、先行研究においても、スタチンの服用が肝がん罹患リスクの低下と関連しているという報告があり、本研究の結果はこれとも一致するものでした。その一方で、低コレステロール値が肝がん罹患リスク上昇に関連しているとする報告もあります。本研究では、肝炎によりコレステロール値が低い方で抗コレステロール薬の服用をしていなかった場合には、肝がん罹患リスクがもともと高い人が内服なしのグループに分類されている可能性があり、そのために抗コレステロール薬内服と肝がんの罹患リスク低下の関連に影響を与えた可能性も考えられます。

 膵がんに関しては、スタチン服用が、がん罹患リスクを上昇させるという報告がある一方で、欧米からはスタチンの膵がん罹患に対する予防効果が多く報告されています。今回の研究結果はこれと一致していませんが、抗コレステロール薬の発がん性を検討した動物実験では、がんが促進されることが示されている報告もあります。今回の研究結果が欧米からの報告と一致しなかったのは、人種の違いなども影響している可能性も考えられます。

 本研究の限界点として、自記式のアンケート調査に基づいているため、抗コレステロール薬の種類を区別できていないことや、服薬期間が正確ではない可能性などがあげられます。今回の研究では、抗コレステロール薬の長期服用ががんの罹患リスクに関連があることが示唆されましたが、抗コレステロール薬の種類、特にスタチンの種類別によるリスクが異なる可能性もあるため、今後のさらなる研究が必要です。

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