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多目的コホート研究(JPHC Study)

魚介類およびn-3系多価不飽和脂肪酸摂取と胃がん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった45~74歳の方々のうち、アンケート調査に回答いただいた、男性42,328人、女性48,176人の方々を、平成25年(2013年)まで追跡した結果に基づいて魚介類、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取と胃がん罹患との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Eur J Nutr. 2024年5月Web先行公開)。

 胃がん罹患の主なリスクはピロリ菌感染ですが、食生活も胃がん罹患に関係していることが示唆されています。塩蔵食品、加工肉の摂取や飲酒が胃がん罹患リスクを上げる可能性が報告される一方、魚介類に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸は、慢性炎症の抑制作用があり、胃がんのリスクを低下させる可能性が報告されています。しかし、魚介類およびn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取と胃がんとの関連についてのこれまでの先行研究は少なく、結果も一致していません。また、ピロリ菌感染の有無を考慮した研究も限られています。そこで、欧米諸国と比較して魚介類の摂取量が多い日本人において、魚介類およびn-3系多価不飽和脂肪酸摂取と胃がんとの関連について調べました。

 

研究方法の概要

 この研究では、調査開始から5年後時点でのアンケート調査で実施した138食品を含む食事アンケートを用いて、魚介類19品(さけ・ます、かつお・まぐろ、あじ・いわし、しらすなどの魚類、たらこやすじこなどの魚卵、アサリ・シジミなどの貝類、ちくわ・かまぼこなどの加工食品、ウナギ、イカ、タコ、エビ、干物など)、魚介類に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸の成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)(以下、魚介類由来n-3PUFA)の1日当たりの摂取量を算出しました。これらの摂取量をもとに、摂取量が少ない順に、人数が均等になるよう5つのグループに分け、最も少ないグループと比較したその他のグループの胃がん罹患リスクについて調べました。また、解析では年齢、地域、余暇の身体活動量、飲酒量、喫煙状況、体格、糖尿病の既往と服薬の有無、高コレステロール血症薬の服薬の有無、胃潰瘍の既往の有無、胃がんの家族歴の有無、高血圧薬の服用の有無、エネルギー摂取量、食事摂取量(野菜、果物、肉、高塩分食品)で統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。魚介類の種類別(魚のみ、塩蔵魚を除いた魚、塩蔵魚・干物、n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚[さけ、あじ、さんま、うなぎなど])の解析では、解析の対象以外の魚介類で調整しました。

 

塩蔵魚・干物の摂取量が多いと男女ともに胃がんのリスクが高くなり、女性では、魚介類由来n-3PUFAの摂取量が多いと胃がんのリスクが低下する傾向

 約15年の追跡期間中に、2,701人(男性1,868人、女性833人)が胃がんに罹患しました。魚介類全体、魚のみ、塩蔵魚・干物、n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚それぞれにおいて、最も摂取量の少ないグループを基準として比較したところ、塩蔵魚・干物の摂取量が多いと男女ともに胃がん罹患リスクの上昇が認められました(図1:男性、図2:女性)。また、女性では、魚介類由来n-3PUFA摂取が多いグループにおいて、胃がん罹患リスクの低下傾向が認められました(図2)。
しかし、ピロリ菌陽性者や萎縮性胃炎がある対象者で、魚介類と胃がん罹患のリスクを検討した場合、上記で見られていた関連はみられなくなりました(図なし)。

 

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図1. 魚介類、魚介類由来n-3PUFA摂取量と胃がん罹患リスク(男性)

(クリックして拡大)

図2. 魚介類、魚介類由来n-3PUFA摂取量と胃がん罹患リスク(女性)

 

この研究について 

 本研究では、男性、女性ともに、塩蔵魚・干物の摂取量が増えるにしたがって、胃がん罹患リスクが高くなっていました。多目的コホート研究における先行研究では、塩蔵魚・干物と胃がん罹患のリスク上昇の関連は報告されていましたが、男性のみに限られていました。このような違いが観察された理由として、追跡期間の延長や研究対象者の背景の違いが考えられます。さらに、高塩分食品摂取と胃がん罹患リスクについて、多くの研究から関連が報告されており、本研究の結果もこれらと一致しています。高塩分食品摂取によって胃の粘膜の防御機能が低下して炎症を引き起こし、発がん物質の影響を受けやすくなることや、ピロリ菌の持続感染につながることで、胃がんが引き起こされると考えられています。
 また、統計学的に有意ではありませんでしたが、魚介類由来n-3PUFAの摂取量が多い女性では、胃がん罹患リスクが低下する傾向にあることも示されました。魚介類由来n-3PUFAが持つ炎症作用によるものと考えられましたが、この結果が女性だけに見られた理由は明らかではありません。
 しかし、これらの傾向はピロリ菌陽性者や萎縮性胃炎がある対象者で解析すると関連がみられなくなったことから、ピロリ菌の感染は、やはり日本人における胃がんの強いリスク因子であると考えられます。
一方、魚介類全体と胃がんの罹患リスクに関連はみられておらず、先行研究においても、本研究同様の結果が報告されています。
 今回の研究では、魚介類の摂取量を追跡開始時の一時点のみで評価しており、追跡期間中の食事の変化を考慮していないこと、また、魚の調理法を把握できていないことなどが研究の限界として挙げられます。魚介類、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取とがんとのメカニズムの解明のためには、魚介類の消費量が多いアジア諸国を含めた、さらなる研究の蓄積が必要です。

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