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多目的コホート研究(JPHC Study)

口臭と認知症との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に秋田県横手保健所管内にお住まいだった40-59歳の男女約15,000人のうち、平成17年(2005年)から平成18年(2006年)に実施された歯科検診とアンケート調査に回答した56-75歳の男女約1,500人を、平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづいて、口臭と、要介護認定情報から把握した認知症(以下:認知症)との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので、ご紹介します(J Alzheimers Dis Rep. 2024年5月公開)。

 口臭は、不十分な口腔衛生・歯周病・舌苔・その他多くの口腔の問題が原因とされています。口臭は他者との関係に悪影響を及ぼし、社会的・心理的困難をもたらす可能性が報告されており、公衆衛生上の懸念事項として認識されつつあります。しかしながら、これまでに口臭と認知症との関連を調査した研究はありませんでした。そこで私たちは、多目的コホート研究において、口臭とその後の認知症リスクとの関連を調べました。

 

研究方法の概要

 本研究では、平成17年(2005年)から平成18年(2006年)に実施された歯科検診で、歯科医が対面での検査により口臭を評価し、「口臭なし」「軽度」「重度」の3つのグループに分類しました。今回の研究では「口臭なし」のグループを基準とし、その他のグループにおけるその後の認知症リスクを算出しました。解析時には、年齢・性別・BMI・教育・健康行動[飲酒頻度・喫煙状態]・併存疾患[糖尿病・脳卒中・高血圧・心筋梗塞]、口腔保健[歯肉発赤・残存歯数・歯磨き頻度]を調整し、それらの要因が結果に与える影響をできるだけ取り除きました。さらに、結果に与える他の影響を取り除くための別の方法として、逆確率重み付けモデル(注1)を作成し、口臭が認知症リスクに与える影響について調べました。

注1. 逆確率重み付けモデルとは、データの偏りを補正し、母集団の特性を正確に推定するための解析手法です。

 

重度の口臭をもつグループは、認知症リスクが高い

 2006年から2016年までに、96人(6.4%)が認知症と診断されていることを確認しました。口臭の評価による3つのグループの認知症発症率は、口臭なしは6.8%、軽度口臭は5.2%、重度口臭は20.7%でした。いずれの手法(モデル)とも、口臭なしに比べて重度口臭で認知症リスクが高いことがわかりました。特に、口臭と認知症リスクとの関係を逆確率重み付けモデルにて分析した結果、重度の口臭を持つ人々は、ない人に比べて、認知症リスクが4.44倍高いことが示されました(図1)。

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図1. 口臭と認知症リスク

 

 口臭の程度別に、11年間の追跡期間中に認知症を発症しなかった確率(=確率が低いほうが認知症を発症する)を、調整したモデルによる生存曲線で図2に示しました。この図から、重度の口臭を有する対象者が認知症を発症しない確率は低い(=認知症を発症する確率は高い)ことが示されました(図2)。

 

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図2.11年間の追跡期間における口臭程度別の認知症を発症しなかった確率の調整生存曲線

 

まとめ

 今回の研究の結果、重度の口臭を持つグループは、口臭なしのグループに比べて認知症発症のリスクが約4.4倍高く、口臭が認知症のリスク増加と関連していることが明らかになりました。このリスクの増加は、結果に与える他の要因の影響をできるだけ取り除いた後でも同様に確認されました。
 この結果から、口臭が社会的交流に影響を与え、社会的孤立を引き起こし、結果として認知症リスクが高いことと関連した可能性が示唆されました。
 本研究の結果は、適切な口腔衛生を維持して口臭を減らすことが、認知症の予防に寄与する可能性があることを示しています。ただし、この研究では、認知機能が低下した人では口腔のケアが十分にできずに口臭が悪化するといった、原因と結果が逆転している可能性を完全に排除できません。また、重度の口臭を持つ人が少ないため、その影響を正確に評価するためには、今後のさらなる研究が必要です。しかし、この研究は口臭と認知症の関連についての理解を深める一歩となります。

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