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多目的コホート研究(JPHC Study)

身長・肥満度(BMI)・身体活動量とインスリン受容体の発現量に応じて細分類された大腸がんの罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に、秋田県横手、沖縄県中部の2つの保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~59歳の方々のうち、調査開始から10年後のアンケート調査にご回答くださった男女約2万人の方々を平成26年(2014年)まで追跡した調査結果に基づいて、身長・肥満度・身体活動量とインスリン受容体の発現量に応じて細分類された大腸がんの罹患リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。(Int J Cancer. 2024年7月Web先行公開

 近年、様々な種類のがんにおいて、腫瘍に見られる遺伝子の突然変異の種類やmRNAに関する情報、タンパク質の発現量などミクロの情報に基づいて分類された分子サブタイプが提唱され、分子サブタイプごとに発がんメカニズムが異なることが示唆されています。そのため、分子サブタイプ別に大腸がんのリスク要因と大腸がん罹患の関連を調べることで、従来よりも発がんメカニズムを考慮しながら、その関連を調べることが可能になると考えられます。
本研究では、大腸がん罹患のリスク要因として確固たるエビデンスがある高身長や肥満と、予防要因として確立している身体活動に着目しました。これらはいずれも血中のインスリン量に関与しており、さらに共通する発がんメカニズムとして、インスリン受容体というタンパク質を介したインスリンシグナル伝達経路が考えられます。そこで、私たちは、高身長や肥満による大腸がんの罹患リスク上昇や身体活動による罹患リスク低下にインスリン受容体が関与しているのではないかと考え、インスリン受容体の発現量に応じて大腸がんを細分類したうえで、それぞれの要因と大腸がん罹患リスクとの関連を調べました。

研究方法の概要

 本研究では、10年後調査時のアンケートにおける身長・肥満度・身体活動量の回答に応じたグループ分けを行いました。身長については、身長順に、かつ人数が均等になるように、4つのグループに分類しました。肥満度については、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められるBMI(Body Mass Index)をもとに、25.0 kg/m2未満、25.0~27.4 kg/m2、27.5~29.9 kg/m2、30.0 kg/m2以上の4つのグループに分類しました。身体活動量については、活動強度を表すMETs(Metabolic equivalents)値に活動時間をかけたMETs・時/日を求め、METs・時/日の値が低い人から順に、かつ人数が均等になるように、4つのグループに分類しました。
 また、本研究では、大腸がんの腫瘍組織中に発現しているインスリン受容体を免疫組織化学染色という方法で染色し、その発現量を評価しました。その結果に基づき、大腸がんをインスリン受容体陽性大腸がんとインスリン受容体陰性大腸がんの2つの分子サブタイプに分類しました。
 統計解析では、身長・BMI・身体活動量の各4グループについて、一番値の低いグループを基準として、大腸がんの罹患リスクを分子サブタイプ別に調べました。この解析にあたり、大腸がんの罹患リスクに影響を与える可能性がある、年齢、性別、地域、喫煙状況、飲酒状況、大腸がん検査の受診状況、糖尿病既往の有無、穀類の摂取量、赤肉・加工肉の摂取量、乳製品の摂取量などを統計学的に調整しました。また、身長・BMI・身体活動量による影響が大腸がんの分子サブタイプ間で異なるかを異質性の検定という統計学的手法で評価しました。

肥満のグループでインスリン受容体陽性大腸がんの罹患リスクが顕著に上昇し、身体活動量はインスリン受容体陽性の大腸がんの罹患リスク低下と関連

 追跡期間中に、520人が大腸がんに罹患し、そのうちインスリン受容体の発現量が評価できた437人のデータを基に、大腸がんの分子サブタイプごとの分析を行いました。身長は、いずれの分子サブタイプにおいても関連を認めませんでした(図1)。一方、BMIについては、24.9kg/m2以下のグループを基準とした場合に、30.0 kg/m2以上のグループにおいて、インスリン受容体陽性大腸がんの罹患リスク上昇が見られました(図2)。また、身体活動量については、5 METs・時/日増えるごとに、インスリン受容体陽性大腸がんの罹患リスクが低下することが示されました(図3)。

 

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図1. 身長と分子サブタイプ別大腸がん罹患リスクとの関連

 

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図2. BMIと分子サブタイプ別大腸がん罹患リスクとの関連

 

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図3. 身体活動量と分子サブタイプ別大腸がん罹患リスクとの関連

 

まとめ

 本研究は、大腸がんのリスク要因として知られる身長・BMIおよび予防要因として知られる身体活動量と、インスリン受容体の発現量に応じた分子サブタイプ別の大腸がん罹患との関連を報告した初めての研究です。本研究では、BMIが30.0 kg/m2以上のグループでインスリン受容体陽性大腸がんの罹患リスクが上昇し、身体活動量が高いほどインスリン受容体陽性大腸がんの罹患リスクが低下していることが分かりました。
一方、身長については、統計学的有意でなかったものの、より身長が高いグループでインスリン受容体陽性大腸がん・陰性大腸がんともに罹患リスクの上昇が見られました。また、肥満や身体活動においても、インスリン受容体陽性大腸がんと陰性大腸がんの間に統計学的な異質性が確認されなかったことから、これら3つの要因から大腸がんの発がん、もしくは抑制に至るまでには、インスリン受容体を介したインスリンシグナル伝達経路以外にも、別の経路が関与する可能性があると考えられます。

 本研究の限界点としては、分子サブタイプ別の分析に用いることができた症例数が比較的少なかったこと、他の観察研究と同様に、未知の交絡因子の影響を排除しきれないことなどが挙げられるため、さらなる研究によってエビデンスの蓄積が必要です。

 多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液などの生体試料を用いた研究は、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」などに則り、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画の下で実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ウェブサイトをご参照ください。また、多目的コホート研究のウェブサイトでは、腫瘍組織を用いた研究のご紹介も行っています。

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