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多目的コホート研究(JPHC Study)

配偶者のがん罹患および死亡が死因別死亡リスクに与える影響について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった方々で、夫婦として特定された40~69歳の男女約5.5万人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、配偶者ががんに罹患した場合のその後の死亡リスク、および、配偶者と死別した場合のその後の死亡リスクの関連 を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol. 2024年8月Web先行公開)。

 これまでの研究により、配偶者や家族など、関係の深い人々の間では健康状態の変化が他の人へ影響すること、特に配偶者との死別により、その後の死亡リスクが上昇することは複数の先行研究で報告されています。一方で、配偶者と死別した後の死亡リスクに関して、どのような死因のリスクが上昇するのかについては、十分明らかにされていません。また、がん罹患は、その配偶者や家族の健康状態に様々な影響を及ぼすことが知られていますが、死亡リスクに与える影響に関してはわかっていません。そこで私たちは、配偶者ががんに罹患した場合のその後の死亡リスク、および、配偶者と死別した場合のその後の死亡リスクについて、死因別に調べました。

 

研究方法の概要

 本研究は、配偶者の がん罹患および死亡情報が利用可能な方を研究対象者としました。研究対象者の観察期間を以下の3つに分類し、期間1に対する期間2、および期間3 の死亡率比を男女別に比較しました。(例は、夫ががん罹患もしくは死亡した時に、研究対象者となった妻のその後の死亡リスクを算出する際の生存期間を表しています)
1. 配偶者のがん罹患および死亡が発生 していない生存期間 (例:がん 罹患していない夫と暮らす妻の生存している期間)
2. 配偶者ががんに罹患し、かつ死亡していない 生存期間(例:がん罹患した夫と暮らす妻の生存している期間)
3. 配偶者が(がん罹患の有無にかかわらず)亡くなってからの生存期間(例:夫と死別後の妻の生存している期間)
 例えば、観察期間の途中で夫のがんの罹患、死亡が順番に発生した妻の場合は、観察開始から夫のがん罹患まで、夫のがん罹患から夫が亡くなるまで、夫が亡くなってから観察期間の終了または妻の死亡までの期間が、それぞれ(1)、(2)、(3)に該当します。
 解析では、年齢 、地域、体格(Body Mass Index)、喫煙状況、飲酒状況、雇用状態について統計学的に調整し、これらが結果に与える影響をできる限り取り除きました。

 

配偶者ががんに罹患した場合の、その後の全死亡リスクは上昇しなかった

 解析の結果、配偶者ががんに罹患した場合の、その後の全死因による死亡リスクの上昇は男女とも認められませんでした。一方で、死因別の評価では、外因死による死亡リスクの上昇が認められ、特に男性における統計学的に有意な自殺リスク上昇が認められました(図1、2)。夫である男性の自殺リスクの上昇は、その配偶者である妻のがん罹患の5年以上後の期間まで継続して認められました(図3)。

喫煙する男性では、死別後の心血管疾患死亡および呼吸器疾患死亡リスクが上昇した

配偶者との死別後の全死因による死亡リスクの上昇は、男性においてのみ認められました。死因別の評価では、心血管疾患、呼吸器疾患、および外因による死亡リスクの上昇が男性において認められました(図1、2)。喫煙歴別の評価では、これらのうち、心血管疾患と呼吸器疾患による死亡リスクの上昇は、喫煙歴のある男性のみで認められました(図4)。なお、本研究の女性の対象者はすべて喫煙歴がない方であるため、女性における喫煙歴別の評価は行っていません 。

 

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この研究について

 本研究から、妻のがん罹患後に夫の自殺リスクが高まり、それは長期間継続することが示唆されました。先行研究によると、がん罹患により、QoLの低下、経済的負担の増大、心理的苦痛および精神疾患の増加など、配偶者に様々な影響をもたらすことが知られています。したがって、がん患者の配偶者に対しては、長期にわたって十分なサポートが必要であると考えられます。
 また、配偶者との死別後の死亡リスクは男性においてより高く、また、特に喫煙歴のある男性において、配偶者との死別後の循環器疾患および呼吸器疾患による死亡リスクが高まることも本研究から示唆されました。配偶者との死別後の死亡リスクが男女で異なることは、先行研究の結果と一致しています。死別による健康への影響は、行動の変化に加えて、心理的苦痛による免疫・炎症系や遺伝子発現の変化など様々な生物学的作用により引き起こされると考えられます。また、喫煙は循環器疾患や呼吸器疾患による死亡と密接に関連していることから、これら死別による生物学的作用が喫煙の影響を増大させた可能性が考えられます。
 本研究は大規模で長期間観察した研究から得られたデータを用いて解析していますが、死因別の解析においては、頻度が低い死因もあり、統計学的な検出力は限られていたため、今回得られた結果が偶然得られた可能性は否定できません。また、統計学的にさまざまな要因の影響を除外するように考慮しましたが、未測定の因子が結果に影響した可能性があることにも留意が必要です。したがって、健康状態の変化が配偶者に与える影響に関しては、さらなる研究が必要です。

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