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多目的コホート研究(JPHC Study)

脳出血の出血部位別の危険因子について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、さまざまな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいで、健診データが把握でき、かつ脳卒中の既往がなかった40歳から69歳の男女34,137名を、平成24年(2012年)まで約20年間追跡した結果に基づき、脳出血の細かい出血部位別にどのような因子が発症と関連するかを分析した研究結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します(Eur Stroke J. 2024年10月Web先行公開)。

 脳出血は、欧米人より日本人に多く、脳卒中の中でも後遺症が残ることや死に至ることが特に多い病気で、発症予防が重要です。発症と関連する因子(危険因子)として高血圧がよく知られていますが、出血を起こす部位によって危険因子は異なる可能性があります。この研究では、日本人を対象に脳出血の部位別に危険因子を分析し、予防対策に役立てることを目的としました。

 

研究方法の概要

 追跡期間中、571件の脳出血が発生しました。脳出血は、皮質下、被殻、視床、小脳、脳幹の5つの出血部位に分類し、その内訳は、皮質下106件、被殻194件、視床163件、小脳43件、脳幹34件、分類不能31件でした。脳出血部位別に、年齢、性別、血圧、総コレステロール値、中性脂肪値、喫煙、飲酒、肥満との関連を分析しました。

 

出血部位によって危険因子は異なっていた

 高血圧(収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、降圧薬内服中のいずれか一つ以上に該当)があると、全脳出血の多変量調整ハザード比が2.09(1.75-2.50)と高く、また出血部位によらず多変量ハザード比は2.0以上でしたが、高血圧は皮質下出血の発症とは関連しませんでした。(図1)皮質下出血は高血圧の影響を強く受ける他部位の出血と異なり、主に脳アミロイドアンギオパチー(注1)が原因と言われており、この違いが結果に影響した可能性があります。
 血清コレステロールの低値(160 mg/dL未満)は、皮質下出血との関連がみられ、正常値(160-240 mg/dL)と比べ多変量ハザード比が1.73(1.01-2.96)と高いことが示されました。一方、血清コレステロールの低値は、日本人で多く見られた被殻や視床の出血とは関連がありませんでした。これまでの研究で、血清コレステロールの低値と脳出血との関連は明らかですが、この関連は血圧が高いほど強くみられることがわかっています。近年日本人の血圧が低下してきたことにより、血清コレステロールの低値と高血圧を主因とする被殻や視床の出血との関連がみえにくくなった可能性があります。
 また、大量飲酒(エタノール換算300 g/週以上)、肥満(Body Mass Index 25 kg/m2以上)が被殻出血の発症と関連していました(多変量調整ハザード比:大量飲酒で1.94(1.20-3.13)、肥満で1.39(1.03-1.88))。喫煙や糖尿病に関しては、特定の出血部位との明確な関連は見られませんでした(図なし)。

注1.脳アミロイドアンギオパチーは、大脳皮質や血管の膜にアミロイドβタンパク質が沈着し、皮質下に出血を引き起こします。高齢者に多く、近年増加傾向にあります。

 

(クリックして拡大)

図1.高血圧と低コレステロールにおける出血部位別の脳出血との関連
(低コレステロールにおける小脳出血、脳幹出血は5人未満と人数が少ないため解析していない)

 

研究のまとめ

 本研究は、脳出血の危険因子を出血する部位(皮質下、被殻、視床、小脳、脳幹)ごとに分析した世界で初めての研究で、出血部位によって危険因子が異なることが示されました。特に、血清コレステロールの低値と皮質下出血との関連は新たな知見です。

 

研究の限界

 この研究にはいくつかの限界があります。まず、皮質下出血の原因と考えられる脳アミロイドアンギオパチーの詳細な検査が行われていないため、正確な評価ができていません。また、1990年代前半当時は抗凝固薬を内服していた人は少ない状況ですが、出血部位に影響を与える抗凝固療法や他の血液凝固異常に関する情報がなかったため、そのことが結果に影響を与えている可能性があります。さらに、研究開始時点のデータに基づいて危険因子が評価されているため、追跡期間中の危険因子の変化が考慮されていない点は留意が必要です。

 

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