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多目的コホート研究(JPHC Study)

ナトリウム(Na)、カリウム(K)摂取量、Na/K比と死亡との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった45~75歳の方々で、アンケートに回答いただき、がん、循環器疾患、糖尿病の既往がなかった男女約8万3千人を、平成30年(2018年)まで追跡した調査結果にもとづいて、ナトリウム(以下、Na)・カリウム(以下、K)摂取量、ナトリウムとカリウム摂取量の比(以下、Na/K比)とその後の死亡リスクとの関連を調べました。その結果を論文発表しましたのでご紹介します(J Nutr. 2025年1月Web先行公開)。

 ナトリウム(Na)やカリウム(K)は人が必要とするミネラルの一種で、Naの主要な摂取源は食塩、Kの主要な摂取源は野菜や果物です。これまでの研究で、食塩や高塩分食品が高血圧等を介して循環器疾患死亡、及び生活習慣病をはじめとする非感染性慢性疾患(以下、Non-Communicable Diseases, NCD)全体の死亡リスクを高めることが報告されており、さらにその影響は、高齢よりむしろ中高年でより強い可能性も示唆されています。食塩摂取量の削減に向けた取り組みは世界中で進められていますが、それでもなお、塩分はNCDによる死亡の主要な食事性リスク要因となっています。また、Na摂取よりもNaとKの比(Na/K比)の方が循環器疾患リスクとより強く関連するとも報告されています。しかし、Na/K比が早期NCD死亡(70歳未満でのNCDによる死亡)に与える影響の大きさを検討した研究は多くありません。そこで私たちは、多目的コホート研究において、Na摂取量、K摂取量、及びNa/K比と、その後の全死亡や主要な疾患による死亡、特に早期NCD死亡との関連を調べました。

 食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、NaとKの摂取量を推定しました。そして、Na摂取量、K摂取量、およびNa/K比によって人数が均等になるように男女別にそれぞれ5群に分け、一番少ないグループと比較したその他のグループにおける全死亡、NCD死亡、早期NCD死亡、がん死亡、循環器疾患(心疾患、脳血管疾患)死亡リスクを調べました。解析は男女別に実施し、年齢、地域、体格、余暇の身体活動、飲酒・喫煙習慣、婚姻状況、居住状況、エネルギー・コーヒー・緑茶・飽和脂肪酸・n-3系多価不飽和脂肪酸・K(Naの解析時のみ)・Na(Kの解析時のみ)それぞれの摂取量、検診受診状況、高血圧薬の使用を統計学的に調整し、これらが結果に与える影響をできる限り取り除きました。

 

男性ではNa摂取量が多いほど全死亡、早期NCD死亡リスクが高い

 男性では、Na摂取量が多いほど、全死亡、早期NCD死亡リスクが高いという結果でした(図1左)。Na摂取量が一番少ないグループに比べて、一番多いグループでは全死亡リスクが11%高く、早期NCD死亡リスクは25%高くなっていました。一方で、女性では全死亡との関連は見られませんでしたが、Na摂取量が多いほど、脳血管疾患死亡リスクが高い傾向でした。

(クリックして拡大)

図1 Na摂取(左)及びNa/K摂取比(右)と全死亡および主要死因別死亡との関連

 

男性ではNa/K比が高いほど全死亡、NCD・早期NCD・がん・循環器疾患死亡リスクが高い

 Na/K比が高いほど、男性では全死亡、NCD、早期NCD、がん、循環器疾患(心疾患、脳血管疾患)による死亡の全てリスクが高いという結果でした(図1右)。Na/K比が一番低いグループに比べて、一番多いグループでは各死亡リスクは約20%~30%上昇しました。女性では、全死亡リスクとの関連は見られませんでしたが、Na/K比が高いほど、脳血管疾患死亡リスクが高い傾向でした。また、男女一緒に解析した場合、男性で示された結果と大きく変わらず、Na/K比が高いほど全死亡、NCD、循環器疾患、脳血管疾患死亡リスクが高いという結果でした。

 なお、K摂取量については、男性では摂取量の多いグループで全死亡、NCD、循環器疾患(心疾患)による死亡のリスクが低下し、女性ではこれらの関連は観察されませんでした (図なし)。

 

今回の結果からわかること

 本研究では、Na摂取量が多いほど、男性では全死亡及び早期NCD死亡のリスクが上昇し、女性では脳血管疾患死亡リスクが上昇することが示唆されました。Na摂取量をK摂取量との比にした場合、男性では全死亡リスクおよび検討したすべての要因別死亡リスクとの関連が強まりました。

 多目的コホート研究ではこれまでに、Na摂取量が多いほど循環器疾患の罹患リスクが高くなることを報告しており、今回のNa/K比が高いほど循環器疾患死亡リスクが高くなる結果(男性および男女混合の解析)と矛盾していませんでした。また、複数のコホート研究を統合する手法で検討した場合も、今回の男性の結果と同様に、Na摂取量が高い場合に全死亡リスクが高いことを報告しています。さらに、本研究ではNa/K比にするとNa摂取単体よりも多くの死因でリスクの上昇がみられたことも、Na摂取量の増加とK摂取量の減少の両方による循環器疾患リスク上昇への影響があることを示唆する先行研究と一貫していました。

 本研究では、男性においてのみ、Na/K比が高いとがん死亡リスクが高くなっていました。世界がん研究基金/米国がん研究所の報告書では、Na摂取源である塩蔵食品は胃がんのリスク増加因子であると考えられる一方、K摂取源である野菜・果物は口腔・咽頭・食道がん、及び胃がん等の消化器がんのリスク減少因子であると指摘されています。そのため、Na/K比は塩蔵食品の高摂取と野菜・果物の低摂取両方の指標となりうるため、特に食道がん、胃がんと関連すると考えられます。今回の解析では、食道がんと胃がんによる死亡は、男性でがん死亡全体の20%、女性で12%あり、女性でリスク上昇がみられなかったことは、消化器系がんの割合の違いに起因している可能性が考えられます。また、食物摂取頻度調査によるNa, K摂取量の測定精度が女性の方が低いことも影響したかもしれません。

 今回の研究では、食物摂取頻度調査票でNaやKの摂取量を完璧に測定できているわけではないことや、疾病の診断後に起こる食事の変化を考慮することができていないことが限界としてあげられます。先行研究では、がん診断の前後で食事摂取状況は変わらないことが報告されていますが、心血管疾患診断後の食事の変化も同様に変化がないのか、今後研究を進める必要があります。

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