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多目的コホート研究(JPHC Study)

喫煙、飲酒と甲状腺がん罹患との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の男女約10万2千人の方々を、平成27年(2015年)まで追跡した調査結果にもとづいて、喫煙・飲酒と甲状腺がんの罹患のリスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので、ご紹介します(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2025年2月公開)。

 

喫煙・飲酒と甲状腺がん

 喫煙と飲酒は、いずれもさまざまながんにおける確実なリスク要因であると報告されていますが、甲状腺がんについてはリスクが低くなることが示唆されています。これらの結果は欧米の研究に基づくものですが、欧米とアジアでは甲状腺がんの組織型の比率やアルコール代謝酵素の遺伝型に違いがあります。喫煙や飲酒の影響も異なる可能性があるため、本研究では日本人を対象に喫煙・飲酒と甲状腺がんリスクとの関連を調べました。

 

研究方法の概要 

 本研究では、調査開始時のアンケート調査の回答から、喫煙習慣と飲酒習慣についてグループ分けを行いました。喫煙習慣については、「吸わない」「やめた」「吸う」に分類し、さらに「吸う」グループの詳細な分類として1日あたりの喫煙本数×年数によって算出した喫煙指数に基づいて「吸う(喫煙指数20未満)」「吸う(喫煙指数20以上)」に分類しました。飲酒習慣については、「飲まない」「時々飲む」「飲む」に分類し、さらに「飲む」グループの詳細な分類として、週当たりの飲酒量をエタノール換算(g)して「週150g未満」「週150-300g」「週300g以上」に分類しました。喫煙習慣については「吸わない」、飲酒習慣については「飲まない」グループを基準として、他のグループの甲状腺がんの罹患リスクを検討しました。解析の際には、性別、年齢、地域、BMI、糖尿病の既往、身体活動、前年の検診、飲酒習慣(喫煙解析時)、喫煙習慣(飲酒解析時)の偏りが結果に影響しないように、統計学的に調整しました。

 

多量喫煙のグループで甲状腺がんのリスクが低い

 平均18.7年の追跡期間中に、232人の甲状腺がんが確認されました。解析の結果、吸わないグループと比べて、吸うグループでは甲状腺がんのリスクが0.65倍、さらに吸うグループの中でも喫煙指数20以上のグループでは、甲状腺がんリスクが0.45倍と低くなりました(図1)。一方、飲酒習慣においては、飲まないグループと比べて、飲むグループでは甲状腺がんリスクが0.9倍、週当たりエタノール300g以上のグループは、0.81倍でしたが、いずれも飲酒と甲状腺がんリスクとの間に統計学的有意な関連はみられませんでした(図2)。

(クリックで拡大)
図1. 喫煙と甲状腺がん罹患リスクとの関連

 

(クリックで拡大)
図2. 飲酒と甲状腺がん罹患リスクとの関連

 

この研究について

 本研究は、日本人においても、喫煙により甲状腺がんリスクが低くなる可能性を示唆しました。喫煙で甲状腺がんのリスクが低くなるメカニズムとして、甲状腺刺激ホルモンの抑制、喫煙の抗エストロゲン作用、ニコチンによる抗炎症作用が考えられます。一方、飲酒については、甲状腺がんとの関連は確認されませんでした。
 今回の研究では、追跡期間中の喫煙習慣や飲酒習慣の変化を考慮できていないことから、真のリスクを評価できていない可能性があります。また、女性における喫煙者が少ないことや男性における甲状腺がんの症例数が少ないことが結果に影響を及ぼした可能性もあります。さらに、本研究は大規模な集団を追跡した研究ですが、甲状腺がんは罹患率が低いため症例数が十分に得られず、統計学的な検出力に限界があり、今回得られた結果が偶然である可能性も否定できません。

 喫煙・飲酒と甲状腺がんリスクとの関連については、日本からの前向きコホート研究は本研究が初めてであり、今後さらなる研究が必要です。本研究では、喫煙によって甲状腺がんのリスクが低くなる可能性が示唆されましたが、研究結果はあくまで甲状腺がんに関するものであり、喫煙や飲酒による健康リスク全般を無視することはできません。喫煙が健康全般に与える有害な影響を考慮すると、喫煙を奨励するものではありません。

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