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多目的コホート研究(JPHC Study)

ポリフェノール摂取とがん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告― 

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内にお住まいだった45~74歳の方々のうち、アンケート調査に回答いただき、がんになっていなかった男女90,175人を対象に、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、ポリフェノール摂取とがん罹患との関連を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Nutr. 2025年5月Web先行公開)。

 ポリフェノールは、複数のフェノール性水酸基を持つ植物成分の総称で、フラボノイド類、フェノール酸類、リグナン、スチルベンに分類されます。強い抗酸化作用や抗炎症作用を有するため、がんの予防に寄与することが期待されています。これまでの研究では、ポリフェノール摂取が大腸がん、胃がんや、肺がん・口腔がんなどの喫煙関連がんのリスクを下げることが報告されていますが、がん全体のリスクとの関連は明らかになっていませんでした。また、ポリフェノールは主にコーヒー、お茶、アルコールなどの飲料から摂取されますが、大豆や野菜・果物など、ポリフェノールを豊富に含む食品の摂取とがんのリスク低下との関連も報告されています。ところが、緑茶や大豆の消費量が多いアジア人を対象とした研究は限られています。本研究では、総ポリフェノール摂取量および飲料を除いた食品由来のポリフェノール摂取量とその後のがん罹患リスクとの関連を男女別に調べました。

 

 

研究方法の概要

 この研究では、調査で実施した食事アンケートの結果を用いて、1日の総ポリフェノール摂取量を推定しました。総ポリフェノール摂取量から、コーヒー、お茶、アルコール飲料由来のポリフェノールを差し引いたポリフェノール摂取量も推定しました。これらの摂取量に基づき、男女別に人数が均等になるよう5つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準として、その他の各グループの全がんおよび部位別のがん罹患リスクを調べました。解析では、年齢、地域、職業、喫煙習慣、飲酒習慣、体格、糖尿病の既往、身体活動量、がん検診受診歴、閉経の有無(女性のみ)、ホルモン剤の服用の有無(女性のみ)、総エネルギー、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、食物繊維の摂取量を統計学的に調整し、これらが結果に与える影響をできるだけ取り除きました。また、飲料を除く食品由来のポリフェノール摂取量の解析では、コーヒーおよびお茶の摂取についても統計学的に調整しました。  

 

 

総ポリフェノール摂取量と肝がんのリスク低下が関連

 約16年の追跡期間中に、12,970人(男性7,999人、女性4,971人)が何らかのがんに罹患しました。解析の結果、男女ともに、総ポリフェノール摂取量と全がんリスクの間に関連は見られませんでした(図1)。がんの部位別にみると、総ポリフェノール摂取量が最も少ないグループに比べて、多いグループで肝がんのリスクが低くなり、摂取量が最も多いグループでは男性で34%、女性で37%、リスクが低下していました。一方、男性の肺がんでは、総ポリフェノール摂取量が増えるほどリスクが高くなる傾向が見られました。

 

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図1. 総ポリフェノール摂取量と全がん、部位別がん罹患リスクとの関連

 

コーヒー、お茶、アルコール飲料を除く、食事由来のポリフェノール摂取量と男性の結腸がんのリスク低下が関連

 さらに、ポリフェノールの主たる摂取源である飲料(コーヒー、お茶、アルコール飲料)を除いた、食事由来のポリフェノールに絞った場合でも解析しました。すると、全がんリスクとの関連はみられませんでしたが、部位別にみると、摂取量が最も少ないグループに比べて、摂取量が最も多いグループで、男性で28%の結腸がんリスクの低下がみられました(図2)。女性では、がん全体でもいずれのがんでも関連はみられませんでした。

 

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図2. 食事由来のポリフェノール摂取量と全がん、部位別がん罹患リスクとの関連

 

研究結果から

 今回の研究では、総ポリフェノール摂取量、そしてコーヒー、お茶、アルコール飲料を除いた食事由来のポリフェノール摂取量、ともに、がん全体のリスクとの明確な関連は示されませんでしたが、部位別にみると、肝がんで、総ポリフェノール摂取量が多いほど罹患リスクが低いという結果でした。動物実験ではコーヒー由来のポリフェノールであるクロロゲン酸が肝臓の酸化ストレスや肝がん細胞の増殖を抑制することが示されており、また、世界がん研究基金によるがんのリスク・予防要因の評価では、コーヒー摂取は肝がんをほぼ確実に予防すると結論づけていることから、コーヒー由来のポリフェノールによるがん予防効果が影響したと考えられます。

 一方、ポリフェノール摂取によって肺がんのリスクが高くなる傾向がみられたことは、本研究の対象者の特性として、総ポリフェノール摂取量が多いほど喫煙率が高かったため、喫煙の影響を除ききれていない可能性が考えられました。

 コーヒー、お茶、アルコール飲料を除く食事由来のポリフェノール摂取量が多いほど、男性で結腸がんの罹患リスクが低いという結果は、野菜・果物由来のフラボノイド摂取と大腸がんリスク低下の関連を報告した中国の研究結果や、アントシアニン摂取と結腸がんリスク低下の関連を報告したアメリカの研究結果とも一致していました。動物実験や細胞実験でも、複数のポリフェノール(アントシアニジン、イソフラボン、フラボノールなど)について、アポトーシス誘導、腫瘍増殖抑制などによって結腸がんを予防する効果があることが示唆されています。

 なお、今回の研究では、1時点のみの食事の評価であり長期間の食習慣を捉えられていないこと、全ての食品におけるポリフェノール含有量データが入手できず摂取量の計算に含められなかった食品(高野豆腐や豆乳など)があり、これが摂取量のグループ分けの誤分類につながった可能性があること、ポリフェノール以外の食品成分の影響を除ききれていない可能性があることなどが限界点として挙げられます。

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