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多目的コホート研究(JPHC Study)

葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取とTP53変異の有無で細分類された大腸がん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に、秋田県横手、沖縄県中部にお住まいだった40~59歳の方々のうち、5年後、または10年後のいずれかのアンケート調査にご回答くださった、男女約2万人の方々を、平成26年(2014年)まで追跡した結果に基づいて、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取と腫瘍組織中のTP53*変異の有無で細分類された大腸がん罹患リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。(JNCI Cancer Spectrum. 2026年3月公開)

*TP53:多くのがんで変異(変化)がみられる遺伝子で、細胞が異常に増えないようにブレーキをかけるなどの働きをしています。TP53に変異が起こると、本来つくられる蛋白の形や働きが変わり、細胞の中に異常な蛋白が蓄積することがあります。このような場合、TP53が過剰に発現しているように見えるタイプのがん(TP53蛋白過剰発現型がん)が観察されることがあります。

 葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12やメチオニンが欠乏すると、DNA鎖の切断やメチル化異常が起き、大腸がんの発がんが誘導されることが基礎研究などから示されています。しかし、米国やカナダで葉酸強化が行われた際には、大腸がん罹患の減少は見られず、むしろ大腸がん罹患の一時的な増加が観察されました。また、ランダム化比較試験において、葉酸サプリメントの摂取が大腸がんの前がん病変である大腸腺腫の再発リスクを増加させる可能性が示されるなど、一定の見解は示されておらず、日本人における葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取と大腸がんのリスクとの関連は、はっきりしていません。

 本研究では、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取と大腸がん罹患リスクとの関連を明らかにするために、大腸腫瘍組織中のTP53変異の有無に着目しました。TP53変異を有する(TP53変異型)大腸がんにおいては、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取がDNA鎖の切断やメチル化異常を防ぎ、TP53変異のない(TP53野生型)大腸がんにおいては、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取はがん細胞の増殖を促進するため、大腸がん腫瘍組織におけるTP53変異の状態により、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取による効果が異なると仮説立てました。そこで、本研究では、大腸がんをTP53変異型とTP53野生型に細分類して、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取による大腸がんへの影響を検討しました。

 追跡調査で判明した大腸がんの腫瘍組織を収集し、大腸腫瘍組織中の遺伝子変異(TP53)の解析を行いました。その結果に基づき、大腸がんをTP53変異型とTP53野生型に細分類しました。そして、食物摂取頻度調査への回答から推定された葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取により対象者を4つまたは3つのグループに分け、大腸がん罹患リスクを検討しました。また、栄養素の摂取量は、性別による差が大きいため、男女ごとの検討も行いました。
解析にあたっては、年齢、性別、体格指標、喫煙状況、飲酒状況、身体活動量、糖尿病の既往の有無、大腸がん検査の受診状況、ビタミンBサプリメント使用、カルシウムおよび食物繊維の摂取量、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンのうち曝露要因以外の栄養素摂取量(例:葉酸を曝露要因とする場合はビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンを調整)を統計学的に調整しました。更に、栄養素摂取による大腸がん罹患リスクへの影響が、TP53変異型と野生型で、異なるかどうか(異質性)を統計学的に分析しました。

 

葉酸およびビタミンB6摂取の大腸がんに対する影響は、TP53変異の有無により異なる可能性がある

 葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取とTP53変異の有無により分類していない全大腸がん罹患リスクとの間に統計学的有意な関連は認められませんでした。次に、TP53変異型とTP53野生型に大腸がんを分類して分析した結果、統計学的に有意ではありませんでしたが、葉酸摂取によりTP53変異型大腸がん罹患リスクが低い傾向とTP53野生型大腸がん罹患リスクが高い傾向が観察されました。葉酸摂取の大腸がんに対する影響は、TP53変異型と野生型の間で異なることが示唆されました(図)。続いて、男女別に同様の分析を行ったところ、女性において、ビタミンB6摂取により、TP53変異型大腸がん罹患リスクが低い傾向とTP53野生型大腸がん罹患リスクが高い傾向が観察されました。ビタミンB6摂取の大腸がんに対する影響も、TP53変異型と野生型の間で異なることが示唆されました。

 

 

図. 栄養素摂取量と全大腸がん、TP53変異型大腸がん、TP53野生型大腸がん罹患リスク
ハザード比:栄養素摂取量が最も少ないグループを1とした場合の、最も多いグループのハザード比

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まとめ

 本研究では、葉酸およびビタミンB6摂取の大腸がんに対する影響は、TP53変異の有無により異なる可能性が示唆されました。
これまでに前向きコホート研究において、TP53変異型と野生型大腸がんと、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取との関連について検討した研究はありませんが、TP53変異型大腸がんの代替指標として、TP53蛋白過剰発現型大腸がん*と葉酸、ビタミンB6との関連を評価した先行研究が2つあります。1つの研究では、葉酸およびビタミンB6摂取とTP53蛋白過剰発現型大腸がん罹患リスク低下との関連が報告されており、もう1つの研究では、関連なしと報告されています。本研究では、前者の研究と同様に、葉酸およびビタミンB6摂取によりTP53変異型大腸がん罹患リスクが統計学的有意ではないですが低い傾向が示唆されました。一方で、TP53野生型大腸がん罹患リスクを評価した研究はなく、葉酸およびビタミンB6摂取量とTP53野生型大腸がん罹患リスクとの関連については、さらなる研究が必要であり、解釈には注意が必要です。

 本研究の限界として、他の観察研究と同様に、未知の交絡因子の影響については考慮できないこと、栄養素の摂取量は自己申告に基づき推定しており不正確さを除去できていないこと、大腸がんを分類することで解析するために十分な症例数が確保できていない可能性があることが挙げられます。今後、さらなる研究の蓄積が必要です。

 

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液などの生体試料を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページ(https://www.ncc.go.jp/jp/about/research_promotion/index.html)をご参照ください。

 

国立がん研究センターがん対策研究所では、私たちの研究成果を含む、これまでの多くの研究結果から、日本人のためのがん予防法や健康寿命延伸のための提言をまとめています。

下記もご覧ください。

 

日本人のためのがん予防法

https://epi.ncc.go.jp/can_prev/index.html

https://epi.ncc.go.jp/files/02_can_prev/cancer_prevention_brochure.pdf

 

健康寿命延伸のための提言

https://www.ncc.go.jp/jp/icc/cohort/040/010/index.html

 

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