多目的コホート研究(JPHC Study)
グリセミック指数・グリセミック負荷とインスリン受容体の発現量に応じて細分類された大腸がんの罹患リスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に、秋田県横手、沖縄県中部にお住まいだった40~59歳の方々のうち、5年後のアンケート調査にご回答くださった、男女約2万人の方々を、平成26年(2014年)まで追跡した結果に基づいて、食事のグリセミック指数 (GI:Glycemic index)・グリセミック負荷 (GL:glycemic load)と腫瘍組織中のインスリン受容体の発現量で細分類された大腸がん罹患リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(European Journal of Nutrition. 2026年6月公開)。
大腸がんのリスク因子の一つとして、糖尿病が知られており、その背景には血中のインスリン濃度の上昇が関与していると考えられています。一般的に、インスリンは食後の血糖値の上昇によって分泌されることから、炭水化物による食後の血糖値の上がりやすさを示す指標であるグリセミック指数(GI)や、炭水化物の質と量とを同時に示す指標であるグリセミック負荷(GL)*が大腸がんの予防につながる食事関連指標として機能すると考えられてきました。
*例えば、血糖を緩やかに上昇させる食品が多い食事内容であっても、摂取量が多ければ食事のGLは高くなります。逆に、血糖を急激に上昇させる食品の摂取が多い食事であっても、摂取量が少なければ食事のGLは低くなります。
これまでの研究ではGI・GLとインスリン値が関連していることが報告されており、GI・GLが大腸がんのリスク上昇と関連する可能性があると考えられています。しかし、JPHC研究を含む先行研究では、GI・GLと大腸がんとの関連について一貫した結果は得られていません。(過去のJPHC研究の成果:食事のGIおよびGLと大腸がんリスクとの関連について)。近年では、様々な種類のがんにおいて、腫瘍に見られる遺伝子の突然変異の種類やmRNAに関する情報、タンパク質の発現量などミクロの情報に基づいて分類された分子サブタイプが提唱され、その分子サブタイプごとに発がんメカニズムが異なることが示唆されています。したがって、先行研究間で一貫した結果が得られなかった理由の一つとして、この大腸がんに存在する様々な特徴を持つ分子サブタイプの影響により、本来の関連性が見えにくくなっていた可能性があります。そのため、分子サブタイプ別に大腸がんのリスク要因と大腸がん罹患との関連を調べることで、従来よりも発がんメカニズムを考慮しながら、検討することが可能になると考えられます。また、一部の大腸がんでは、インスリンを受け取る仕組みであるインスリン受容体が相対的に多く発現しており、このようながんでは、インスリンの影響を受けやすい可能性が考えられます。
そこで、本研究では大腸がんをインスリン受容体の発現量によって細分類したうえで、食事のGI・GLと大腸がんとの関連を調べました。
本研究では、追跡調査で判明した大腸がんの腫瘍組織を収集し、そのインスリン受容体の発現量を定性分析しました。この結果に基づき、インスリン受容体を高発現しているサブタイプ(陽性)と低発現しているサブタイプ(陰性)に大腸がんを細分類しました。そして、食物摂取頻度調査への回答から推計された食事のGI・GLにより対象者を3つのグループ(低、中、高)に分け、サブタイプごとに大腸がん罹患リスクを検討しました。
解析にあたっては、年齢、地域、飲酒状況、喫煙状況、赤味肉・加工肉摂取量、身体活動量を統計学的に調整し、これらによる影響をできるだけ取り除きました。
GI・GLともにインスリン受容体の発現量によらず大腸がんリスクとの関連はみられなかった
追跡期間中に、515人が大腸がんに罹患し、そのうちインスリン受容体の発現量が評価できた415人のデータを用いて、大腸がんの分子サブタイプごとの解析を行いました。まず、インスリン受容体の発現量で細分類しない場合の食事のGI・GLと大腸がんリスクの関連を調べましたが、統計学的な有意差を認めませんでした(図1)。次に、大腸がんをインスリン受容体の発現量(陽性・陰性)で細分類して、同様に食事のGI・GLとの関連を調べましたが、同様に統計学的な有意差を認めませんでした(図2、3)。
![]()
図1.食事のGI・GLと大腸がん罹患との関連
![]()
図2. 食事のGIと分子サブタイプ別大腸がん罹患リスクとの関連
![]()
図3. 食事のGLと分子サブタイプ別大腸がんリスクとの関連
まとめ
本研究は、食事のGI・GLと、インスリン受容体の発現量に応じた分子サブタイプ別の大腸がん罹患との関連を報告した初めての研究です。結果として、インスリン受容体の発現量に応じて細分類した場合でも、食事のGI・GLと大腸がんとの間に統計学的に有意な関連を認めませんでした。
ただし、GI・GLは主に炭水化物を摂取した後の血糖値の上がりやすさを示す指標であるため、タンパク質、脂質の影響やインスリン抵抗性に伴う慢性的な高インスリン状態を十分に反映していない可能性があります。また、本研究の対象である日本人集団に特有の食習慣・生活習慣が結果に影響しており、他の人種・民族では関連が異なる可能性もあるため、慎重な結果の解釈が必要です。
本研究の限界点として、大腸がんの分子サブタイプ別の解析で用いることができた症例数が少なかったこと、GI・GLの評価に自記式質問票を用いたことによる測定誤差や追跡期間中の食習慣の変化を捉えられていない可能性があること、未知の交絡因子の影響を除外しきれていないことなどが挙げられ、今後さらなる研究が必要です。
多目的コホート研究のがん罹患者から収集された腫瘍組織を用いた研究は、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に則り、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画の下で実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ウェブサイトをご参照ください。また、多目的コホート研究のウェブサイトでは、腫瘍組織を用いた研究の紹介も行っています。
国立がん研究センターがん対策研究所では、私たちの研究成果を含む、これまでの多くの研究結果から、日本人のためのがん予防法や健康寿命延伸のための提言をまとめています。
下記もご覧ください。
日本人のためのがん予防法
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/index.html
https://epi.ncc.go.jp/files/02_can_prev/cancer_prevention_brochure.pdf
健康寿命延伸のための提言
https://www.ncc.go.jp/jp/icc/cohort/040/010/index.html

