多目的コホート研究(JPHC Study)
循環器疾患診断前後の食事・生活習慣の変化について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいで研究開始時40~69歳の方々のうち、研究開始から5年後と10年後に行った調査アンケートに回答した方を対象として、その間に循環器疾患(脳卒中または心筋梗塞)の診断を受けた方と受けなかった方の食事摂取量および生活習慣の変化について比較した結果を発表しましたので、ご紹介します(Journal of Human Nutrition and Dietetics 2026年8月公開)。
循環器疾患は世界的に主要な死因の一つです。一方で、近年は診断や治療の精度の向上などにより生存率が上昇しており、循環器疾患の既往歴を持つ人の数が増加しています。循環器疾患の再発の有無は、食事を含む生活習慣と関連していますが、急性期治療後に食事や生活習慣がどの程度改善され、維持されていることを示す研究はほとんどありません。
そこで本研究では、循環器疾患と新規に診断された人の診断前後の5年間における食事摂取量の変化および生活習慣の変化を、診断されなかった人と比較することで検討しました。
研究方法の概要
今回の研究では、研究開始から5年後の調査を1回目、10年後の調査を2回目と定義しました。両方の調査で生活習慣アンケートおよび食物摂取頻度調査票(FFQ)に回答した68,733人(男性31,494人、女性37,239人)の生活習慣および食習慣の変化を把握しました。1回目から2回目の調査までのおよそ5年間で、新規に診断されたグループと診断されなかったグループについて、生活習慣が変化した人の割合や食習慣の変化量を比較しました。
エネルギー摂取量と6つの栄養素*、16の食品および食品群*について、5年間の摂取量の変化量を算出し、この変化量について、グループ間で差があるかを調べました。さらに、年齢、調査地域、BMI、独居、身体活動量、喫煙、総エネルギー摂取量を調整した重回帰分析を行うことで、これらの影響をできるだけ取り除いた、診断なしグループに対する新規診断グループの相対的な変化量を明らかにしました。また、喫煙習慣*、BMI*、身体活動量(増減)*について、変化した人の割合を診断なしグループと比較しました。
*【対象とした項目】
| エネルギー | エネルギー摂取量 |
| 栄養素 | 飽和脂肪酸、n-3系不飽和脂肪酸、ナトリウム、カリウム、食物繊維、アルコール量 |
| 食品・食品群 | 米、みそ汁、果物、果物(漬物・ジュースを除く)、野菜、野菜(漬物・ジュースを除く)、漬物、果物・野菜ジュース、塩蔵魚、魚(塩蔵魚を除く)、牛・豚肉、大豆製品、乳製品、緑茶、コーヒー(缶コーヒーを除く)、甘味飲料 |
| 喫煙習慣 | 現在喫煙、非喫煙 |
| BMI | ~18.5kg/m2、18.5 kg/m2~25.0 kg/m2、25 kg/m2~30.0 kg/m2、30.0 kg/m2~ |
| 身体活動量 | 三分位 |
循環器疾患診断前後における栄養素・食品群摂取量の変化
5年間で800人(男性508人、女性292人)が、新規に循環器疾患と診断されました。新規診断グループの人たちは、みそ汁、漬物、牛肉や豚肉の摂取量を、診断なしグループの人たちよりも減らしていました。一方で、野菜や果物の摂取量の変化については、2つのグループ間で有意な差は見られませんでした。
また、摂取量の変化に影響を与える可能性のある要因を調整した相対変化量でも、結果は変わりませんでした(図1)。
![]()
図1. 診断なしグループに対する新規診断グループの相対変化量
※野菜・果物は漬物とジュースを除いたもの
循環器疾患診断前後における喫煙習慣・BMI・身体活動量の変化
1回目の調査時に喫煙していた人のうち、新規診断グループは、診断なしグループと比較して、男女ともに禁煙した割合が有意に高いことがわかりました。また、1回目の調査時に過体重以上(BMIが25kg/m²以上)だった人のうち、BMIを適正範囲の方向へ下げた人の割合も、新規診断グループで有意に高いことが明らかになりました。一方で、身体活動量を増やした人の割合は有意に低く、減らした人の割合が有意に高いことがわかりました(図2)。
![]()
図2. 診断なしグループに対する新規診断グループの生活習慣変化者の割合のオッズ比(男性)
この研究からわかること
循環器疾患と診断された人たちは、診断後に食塩などの摂取を減らしたり、禁煙に取り組んだり、BMIを適正な範囲に下げたりしていることがわかりました。一方で、積極的に摂取すべきとされる野菜や果物について、統計学的に有意な増加はみられませんでした。
本研究の限界点として、対象者は比較的症状の軽いグループであると考えられ、様々な症状の患者全員には当てはまらない可能性があること、身体活動量の変化について、歩行・座位などの具体的な行動までは詳しく特定できなかったことが挙げられます。
本研究の結果は、循環器疾患の診断により一部の生活習慣および食品摂取において、行動変容が生じることを示しています。一方で、循環器疾患予防ガイドラインで推奨されている野菜や果物などの摂取量に変化がみられなかったことから、長期的な食事管理に重点的に取り組むべき課題が存在することが示唆されました。

