多目的コホート研究(JPHC Study)
主要疾患(心筋梗塞、脳卒中、がん)の診断や手術と禁煙との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部および平成5年(1993)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の計9保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~69歳の方々のうち、調査開始時のアンケートに回答し、調査開始時に喫煙していた約1万8000人を10年間追跡した調査結果にもとづいて、主要疾患(心筋梗塞、脳卒中、がん)の診断や手術と禁煙との関連を調べました。その結果を論文として発表しましたので、ご紹介します(Journal of Epidemiology 2026年9月Web先行公開)。
喫煙は、心筋梗塞、脳卒中、肺がんをはじめとするさまざまながんなど、多くの疾患のリスクを高めます。また、これらの疾患に罹患した後の禁煙は、再発リスクや死亡リスクの低下との関連が報告されています。さらに、手術を受ける人においても、喫煙は術後合併症のリスクを高める一方、禁煙はそのリスクを低下させることが報告されています。
病気の診断は、禁煙を始める「きっかけ」となる可能性があります。しかし、日本人の一般住民を長期間追跡し、心筋梗塞、脳卒中、がんの診断や手術と、その後の禁煙との関連を同じ集団内で比較した研究は限られていました。
そこで本研究では、研究開始時に喫煙していた人を対象として、追跡期間中の主要疾患の診断や手術の経験と、10年後の禁煙との関連を調べました。
研究方法の概要
喫煙状況は、研究開始時、10年後の質問票で確認し、10年後に「以前は吸っていた」または「吸っていない」と回答した人を、「禁煙している」としました。
追跡期間中の主要疾患(心筋梗塞、脳卒中、がん)については、質問票に加えて、地域の主要医療機関の診療録調査や地域がん登録などを用いて確認しました。手術の有無は、10年後の質問票から把握しました。解析では、居住地域、年齢、性別、肥満指数(BMI)、職業、独居、ストレス、飲酒、健康診断受診状況、喫煙本数、喫煙開始年齢、職場での受動喫煙など、禁煙に関連する可能性のある要因の影響を統計学的に調整しました。
主要疾患(心筋梗塞、脳卒中、がん)の診断は、その後の禁煙と強く関連していた
17,779人のうち、10年後に禁煙していた人は4,789人で、全体の26.9%でした。追跡期間中に心筋梗塞、脳卒中、がんのいずれかを診断された人は1,726人で、そのうち998人が10年後に禁煙していました。
背景要因を調整した結果、主要疾患(心筋梗塞、脳卒中、がん)のいずれかを診断されたグループでは、診断されなかったグループと比べて、10年後に禁煙している人の割合が高く、その関連の強さを示す指標(OR:オッズ比)は5.39でした。(図1)。疾患別の調整オッズ比は、心筋梗塞で6.87、脳卒中で4.03、がん全体で2.91でした。特に肺がんでは7.41と、禁煙との強い関連を認めました(図1)。
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図1.追跡期間中の主要疾患の診断と10年後の禁煙との関連
※基準(1.0)は、「主要疾患のいずれか」では診断の報告がなかったグループ、心筋梗塞、脳卒中、がん全体ではそれぞれの疾患を診断されなかったグループ、肺がんではがんを診断されなかったグループとし、10年後に禁煙しているオッズが何倍であったかを示す。
手術も禁煙と関連し、特に肺手術で強い関連がみられた
追跡期間中に何らかの手術を受けた人は1,403人で、そのうち673人(48.0%)が10年後に禁煙していました。背景要因を調整すると、手術を受けた人では、手術を受けなかった人と比べて、禁煙しているオッズ比は2.53でした。特に肺の手術を受けた85人では、72人(84.7%)が10年後に禁煙していました。肺の手術と禁煙との調整オッズ比は16.6でした。
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図2.追跡期間中の手術および手術部位と10年後の禁煙との関連
※手術を受けなかったグループを基準(1.0)として、10年後に禁煙しているオッズが何倍であったかを示す。
まとめ
本研究から、心筋梗塞、脳卒中、がんなどの主要疾患の診断や手術を経験した人では、これらを経験していない人に比べて、10年後に禁煙している人が多いことが示されました。特に、心筋梗塞、肺がん、肺手術など、生命への危険が大きく、喫煙との関係を認識しやすい出来事で、禁煙との強い関連がみられました。
本研究の限界として、禁煙状況が自己申告であること、10年間生存できた人の結果に偏っている可能性があること、疾患の重症度や禁煙支援の実施など結果に影響を与える可能性のある未測定の要因があることなどが挙げられます。
病気の診断時、入院時、手術の前後は、患者さんが喫煙と自身の健康について改めて考える禁煙支援の「きっかけ」となる可能性があります。一方、また、この研究では、主要疾患を診断された人の約4割、手術を受けた人の約5割は、10年後にも喫煙を続けていました。また、5年後までに禁煙した人の約5人に1人は、その後においても、一定数の人が喫煙を再開していました。したがって、診断時や手術前後の一時的な働きかけだけでなく、退院後も含めた継続的な禁煙支援が必要と考えられます。

