多目的コホート研究(JPHC Study)
食物繊維摂取と自殺との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、ベースラインおよび研究開始から5年後に行った調査票に回答した男女約9万名を、2018年まで追跡した調査結果に基づいて、食物繊維摂取量と自殺との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Br J Nutr 2026年11月Web先行公開)。
食物繊維は、腸内環境を整えたり、炎症を抑えたり、体内の代謝のバランスを保つことで、メンタルヘルスに良い影響を与え、うつや自殺リスクの低減に関連することが示唆されています。これまでに、食物繊維の摂取が多いほどうつの有病率や発症リスクが低いことが報告されています。しかし、食物繊維の摂取と自殺との関連を検討した研究はありません。そこで、多目的コホート研究において、食物繊維摂取と自殺との関連を調べました。
食物繊維の総摂取量と自殺リスク低下との関連は、他の栄養素の影響を取り除くと弱まった
研究開始から5年後に行ったアンケート調査の結果に基づいて、食物繊維の総摂取量により対象者を4つのグループに分類し、その後約19年の追跡期間中に発生した自殺(459名)との関連を調べました。食物繊維摂取量が最も少ない群を基準に、自殺の発生のハザード比を求めました。ハザード比は、ある時点における疾病の発症率を、グループ間で比較する指標です。その結果、食物繊維の総摂取量が最も多い群では最も少ない群と比べて、自殺の発生リスクを示すハザード比(95%信頼区間)は、0.65 (0.46-0.93)で、自殺のリスクが低くなっていました(図1:調整モデルA)。食物繊維摂取量が多い人では、同時に葉酸やビタミンB6、マグネシウム、鉄などの栄養素を多く摂取している傾向があります。そこで、これらの栄養素の影響を統計的に取り除いたうえで、食物繊維摂取量と自殺との関連を調べたところ、関連はみられませんでした(図1:調整モデルB)。
図1.総食物繊維摂取と自殺のリスク
調整モデルA:年齢、性別、地域、BMI、喫煙、飲酒、身体活動、高血圧、糖尿病、総エネルギー摂取量、精神的ストレス、居住形態、重篤な疾患(がん、脳血管疾患、心疾患等)、職業、ビタミンB12、ビタミンD、カルシウム、亜鉛、n-3多価不飽和脂肪酸
調整モデルB:調整モデルA+食物繊維と相関の高い栄養素(葉酸、ビタミンB6、マグネシウム、鉄)
食物繊維の摂取源ごとの摂取量も自殺との関連なし
食物繊維の摂取源ごとに自殺との関連を調べたところ、野菜類、果物類からの食物繊維摂取量が最も多い群では最も少ない群に比べて、自殺の発生リスクを示すハザード比はそれぞれ0.75 (0.53-1.06)、0.75 (0.54-1.04)であり、自殺の発生リスクが低い傾向を認めました(図なし)。しかし、この関連も、葉酸やビタミンB6、マグネシウム、鉄の影響を統計的に取り除いたうえで調べたところ、いずれの食品群からの食物繊維摂取量も自殺との関連はみられませんでした(図2)。
図2.摂取源別の食物繊維摂取と自殺リスク
※図1の調整モデルBと同様のモデル
まとめ
今回の研究では、食物繊維の総摂取量が多いグループでは自殺の発生リスクが35%低く、野菜類および果物類からの食物繊維摂取量が多い群では自殺のリスクが低い傾向となっていましたが、葉酸、ビタミンB6、マグネシウム、鉄の影響を取り除くと関連は認めませんでした。これは、食物繊維が単独で摂取されるものではなく、食品および食事中の栄養素として、さまざまな栄養素とともに摂取されるということを反映しています。つまり、食物繊維そのものの効果を、食事全体から切り離して評価することの難しさを示しており、むしろ食物繊維を豊富に含む健康的な食事パターンが、自殺リスクの低下に関連している可能性を示唆しています。
食物繊維そのものと自殺との関連を認めなかったものの、食物繊維やそれに関連する栄養素を豊富に含む食品を摂取することが、メンタルヘルスの維持・改善に役立つ可能性が示されました。心の健康を保つためには、野菜や果物等を積極的に取り入れた食事を心がけることが推奨されます。
本研究の限界として、複数回の調査票に回答した参加者は健康意識が高い傾向にあり、一般化が難しい可能性が挙げられます。また、1回のアンケート調査で食事を評価しているため、追跡中の食事の変化などの長期的な食習慣を十分に反映できていない可能性があります。

