トップ >多目的コホート研究 >リサーチニュース >2006 リサーチニュース >2006/9/4 ヘリコバクターピロリ感染と関連要因による胃がんリスク
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

2006/9/4 ヘリコバクターピロリ感染と関連要因による胃がんリスク

多目的コホート(JPHC)研究から、保存血液を用いてヘリコバクターピロリ抗体、CagA抗体、萎縮性胃炎のマーカーであるペプシノーゲンを測定し、胃がんリスクとの関係を調べた結果が発表されました。
(「キャンサー・エピデミオロジー・バイオマーカーズ・アンド・プリベンション」2006年7月1日発行、日本癌学会学術総会にて9月29日発表予定)。

この研究の母体となる多目的コホート研究では、最初に生活習慣などのリスク要因を調査するとともに血液を収集し、その後の長期追跡期間のがん等の発生との関連を前向きに調べています。今回の研究は、その中で、保存しておいた血液検体を測定して「症例」と「対照」を比較する「コホート内症例対照研究」という方法で実施しました。この方法の特徴として、がんになった方の、がんになる前の血液を用いた研究ということが挙げられます。

研究を開始した1990年から1992年(コホートI)と1993年から1995年(コホートII)に、参加者のうち約4万人の方から、研究のために血液をご提供いただきました。今回の研究は、15年の追跡期間中に胃がんになった患者グループと、胃がんにならなかった対照グループ(年齢・性別・居住地域等を1:1対応で抽出)のデータを用いて、ヘリコバクターピロリ菌関連マーカーなどを比較したものです。

これまでに、ヘリコバクターピロリ菌が胃がんの原因であることはわかっていましたが、どの程度の関連があるのか、どのような条件でどれくらいリスクが高くなるのかなどは、よくわかっていませんでした。

保存血液を用いた研究の実施にあたっては、まず具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。本研究班における、保存血液を用いる研究計画については、研究班のホームページをご覧ください。
国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

ヘリコバクターピロリ菌抗体と胃がんリスクについて

多目的コホート研究の一環として、保存血液のある40‐69歳の男女約4万人を、約15年追跡したデータを用いて、血液中のヘリコバクターピロリ抗体 (HpAb)、CagA抗体(CagA)、ペプシノーゲン(PG)の値とその後の胃がんリスクの間にどのような関連があるかを調べてみました。追跡期間中、512人に胃がんが発生しました。ピロリ菌抗体陽性者の割合は胃がんグループで94%、対照グループでは75%でした。

HpAb陽性者の胃がんリスクは、陰性者の5.1倍でした。5倍といえばかなり高い相対リスクですが、どれくらいの頻度かといえば、目安として、10万人当たり1年間で概算すると、約7万5000人のHpAb陽性者から75人(0.1%)が胃がんになったのに対し、約2万5000人のHpAb陰性者からは5人(0.02%)が胃がんになったことになります。
(注:これは、リサーチニュース読者の参考のための単純な概算値であり、実際の測定値ではありません。)

ところで、これまでに国内で行われた疫学研究で、HpAbによる胃がんの相対リスクをみると、福岡県の久山町コホート研究では男性2.59、女性0.99 (ArchIntern Med 2000; 160:1962-8)、文科省科研費の補助によるJACCスタディーでは男性1.7、女性2.7(Br J Cancer 2004; 90:135-8) と報告されています。

これらに対し、今回、多目的コホート研究では男性6.8、女性4.6と、かなり高くなりました。3つの研究では対象年齢はほぼ同様ですが、検査方法や胃がんの発生率、対象者の特徴など異なる点も多く、単純には比較できないかもしれません。

ピロリ菌に感染したことがある人の胃がんリスクは10倍

HpAbは、ピロリ菌に感染したことがあるかどうかを示します。ただし、ピロリ菌は、胃がんの前がん病変である萎縮性胃炎が進むと、もはや胃の中に棲めなくなり、やがて抗体も検出されなくなります。

CagAは、ピロリ菌の病原性を決めると考えられている蛋白の1つで、この蛋白の遺伝子を持つピロリ菌は、胃炎などの症状を起こしやすいと考えられています。

HpAb陰性で、かつCagA陽性であった人は、症状が進んだためにHpAbが消えたものと考えられます。この隠れた陽性者をピロリ菌感染者に含めると、胃がんグループの99%、対照グループの94%が感染していたことになり、感染者の胃がんリスクは感染したことがない人の10.2倍になりました。

慢性萎縮性胃炎がある人の胃がんリスクは4倍

PGは、慢性萎縮性胃炎の診断に用いられるマーカーです。PGの判定によって、胃がんリスクを比べると、陽性(+から3+)の胃がんリスクは陰性の3.8倍でした。陰性(−)から最も強い陽性(3+)までの4段階で判定されたうち、(3+)のグループでは(-)グループの4.6倍高くなっていました。

さらに、PGの結果にHpAbを組合せると、どちらも陰性に比べ、HpAbのみ陽性で4.2倍、PGのみ陽性で4.9倍、どちらも陽性で10.1倍でした。

除菌について

ヘリコバクターピロリ菌感染で胃がんリスクが高くなるのならば、除菌による胃がん予防効果についても気になるところです。

今回の分析を担当した笹月静・国立がん研究センター予防研究部室長は、

「これまでの研究を総合的にみても、いまのところ、除菌で胃がん予防が可能という確実な証拠が揃っているとは言えません。さらに、薬による副作用や他の病気への影響、効果が期待できる時期など、未解決の問題も多いのが現状です。
今回の対象者は2006年現在56歳以上の集団ですが、そのほとんどがピロリ菌に感染したことがあるという結果でした。感染者の胃がん相対リスクがかなり高くなるにしても、そのうち実際に胃がんになる頻度はわずかです。
今後臨床試験によって除菌による胃がん予防効果の確実な結果が出るまでは、まず、高塩分や喫煙、野菜・果物不足など胃がんリスクを高くするような生活習慣を改善し、その上で、胃粘膜萎縮が指摘された方は、定期的な胃がん検診を受けることをお勧めします」

と述べています。


詳しくは、概要版をご覧ください。

上に戻る